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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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52.そいね

 夜中に目が覚めて、お手洗いに行った。

 少し寒いな、なんて思っていると。シノの寝室から話し声が聞こえた。

 ヒグレらしい声がぽつりぽつりと語っていたのは、昔の話。

 聞いていて、人間というものが恐ろしく思えた。

 人間にだって色んな者がいる。でもヒグレに対しての行為は、絶対に許されていいものではない。

 私はただ静かにうずくまって、扉の前でその話を聞いていた。


「こうして好きな相手と一緒の布団ってのも初めてっすね」

「初めてがボクとでいいの?」

「マスターだからいいんすよ。お嬢あたりに見つかったら危ないっすけど…この時間帯なら熟睡してるだろうし、ちょっとぐらい…」

 ぎし、とベッドが軋む音がして。


 おいおいちょっと待て待て。

 まさかシノ、今ヒグレと同衾しているのか⁉

 だとしたら何としても止めなくてはならない。

 男女の意味合いを持っていないとしても。今のヒグレは何をしでかすか…。


「そこまでよ!」

 どかぁん!と勢いよく扉を開け放った。

「えっ、ちょっ、お嬢どうしてここに⁉」

 がば、と起き上がったヒグレ。

 無論シノのベッドの上で、である。

「あんたたちまた助平なことしようとしてたでしょう!」

「誤解だよ⁉男同士だから何も起こらないよ⁉」

 すぐに起き上がるシノ。

 しかし私は許さない。

「男のヒグレが夜にベッドにやってきた!これは立派な夜這いよ!」

 するとヒグレは首を横に振って。

「…先にベッドに誘ったのはマスターの方っす」

「お願いだからそんな誤解を招く言い方しないで!またあらぬ誤解が生まれてる気がする!」

 

 ヒグレがこんなに大胆になるなんて、成長してるな…やっぱりシノが飲酒しての一件からかなり意識するようになったようだ。

 私も負けていられないな。

「ヒグレが寒いって言ったから、布団であっためてただけだよ。ボクは襲ったりなんかしないよ?」

 …シノがヒグレに襲われるんじゃないかと心配しているのだが。

「あのねシノ。男はみんなケダモノなのよ。だからあんたみたいな可愛い子は危ないの」

「ボク女の子じゃないんだけど。可愛いって言われるの複雑なんだけど」

 しかしどうしたものか。ここで無理に引きはがせば、今後私がシノに添い寝を頼みづらくなる。

 なら、取るべき手段は一つ。


「私も一緒に寝るわ」

「なんでそうなるの⁉」

 問答無用でベッドの上によじ登る。

 魔王用とあってか、随分と大きい。

「この大きさなら大丈夫だけどさ…ヒグレ、もうちょっとそっちに寄れる?」

 シノは押しに弱い。強引にでも実行すればだいたい通る。それがまた心配になってしまうところだが…。

「…了解っす」

 少し不服そうなヒグレの横顔が印象的だった。


 シノを真ん中に右に私、左にヒグレが寝ることになった。

「すごく寝辛いんだけど?」

「これ以外ありえないわ。我慢しなさい」

 全く、女の子が同じ布団の中にいるのに。何も思わないのか。

「寝返りが打てない…」

 一緒に寝るシノをちらりと見た。

 白いシーツに沈み込んだ身体。薄暗い中黒い艶のある鱗がほのかに光っているように見えて。

 鎖骨の線も美しいもので。布団の暗がりに見え隠れする太ももは、筋肉質ながらも大変良い肉付きをしていて。

 昼間にはない魅力を、感じてしまった。

 …こっちがドキドキさせられてどうするんだ。

 ああもうこの無自覚め。

 ヒグレも、こんなおいしいところを独り占めしてたなんて。

「一晩中あんたたちを監視するわ。安心なさい。一睡もしないわ」

「普通に寝ようよ。身体に悪いよ」

 状態異常無効もあり、徹夜くらいでは疲れないのだ。

「そこまでやらなくてもいいじゃないすか…だいたい、お嬢も押しかけ女房みたいなもんだし…」

 むす、とした表情のヒグレがぼやいた。


 布団を被って耳を塞いだ。気にしていたので聞こえないふりをした。

 …すると当然、シノの身体が近くなるわけで。頬がかぁっと熱くなるのが分かった。

 私も相当な馬鹿かもしれないな、と思った。

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