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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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51‐2間 閑話.側仕えになった半竜

 ただ抱きしめられていた。

 幼くて、まだ空の色もよく分からないころ。

 父の顔は知らない。でも母のぬくもりは知っていた。


 それが、唐突に消えた。

 抱きしめる腕はかたく、冷たい。母の胸の中で、鼻と口を満たすのは真っ赤な血だった。

 お腹が減って母にすがっても、母は動かなかった。

 これが生まれて初めて知った、死というものだった。

 母は死んでも自分を離さなかった。

 母を殺した人間たちは、自分を引きはがすため、母の身を切り刻んだ。それはもう、惨たらしく、跡形もなく。

 そのまま殺された方が良かった。

 しかし人間たちは、それほど優しくはなかった。

 檻に入れられ、鎖でつながれた。

 脱走させないため、と翼を抉り取られた。このとき、生まれて初めて痛みというものを知った。

 その痛みを与えた人間という存在を、ひどく恐れるようになった。

 これは都合が良い、と人間たちは嗤った。

 翼を売りさばくと金になったらしく、身体を切り刻んでいくようになった。

 角を引く抜かれ、鱗を剝がされた。生爪を剥ぐよりずっと痛かった。

 腹を切られ、はらわたを引きずり出されることも何度かあった。

 あまりの痛みに、死を直感した。

 でも死ねなかった。人間たちが、回復薬を使って傷を治していくのだ。

 吸血鬼の血のせいで、再生能力まで得てしまったのが運の尽きだった。

 何度でも利用してやれる、と人間たちは欲望のままにこの身を利用し尽くした。

 でも恐怖と痛みに負けて、従うことしかできなかった。


 あるときから人間は、人間の姿を求めるようになった。

 魔法なんて教わっていない中、鞭を打たれながら必死に練習した。

 そしてようやく人間に化けられるようになったころ、夜の相手をしろと命じるようになった。

 逃げようとすれば、魔法で激痛を与えられる。頭を引き裂くような痛みは、到底耐えられるものではなかった。

 

 だから、心は壊れてしまった。

 言われたことに従順な人形でいる方が、苦しみを味あわずに済んだ。

 何も考えないように。何も感じないように。


 しかしこれもまた破られた。

 また新しい主に買われるのかと思っていた夜にやってきた、救世主。

 恐ろしいほどに怒っていて、信じられないくらい禍々しい力。

 誰よりも綺麗な黒髪に、自分だけを見つめてくる満月。

 その日、全てが一変した。

 どうしたいのか、と血色の瞳が問いかけてきた。

 その瞬間だけ、自分を雁字搦めにしていた恐怖と痛みが引っ込んで。

 生まれて初めて、腹の底の言葉が声になって口から飛び出した。


 そしてその救世主に、自分の全てを委ねることにした。

 名前を与えられ、自分らしく生きることを教えてもらった。

 あたたかい食事と寝床。

 …吸血しないで済むのは、本当にありがたかった。吸血した相手が快楽に溺れ、壊れていくのを見なくていいから。


 自分らしい姿で、自分らしく生きること。

 それが救世主から命じられたことだった。

 どうしようもないくらい優しくて、嬉しくて。

 また気がおかしくなりそうなくらいに喜ぶ自分が、そこにいた。


 ずっと側に居たい、と思える存在は初めてだった。

 自分から、相手に尽くしたいと思えるのも初めてだった。

 …失うのが怖い、と思うのも初めてだった。

 だから、これからもずっと役に立ちたいと思った。


 側で仕え続けること。それが竜と吸血鬼のハーフ、ヒグレの願いになった。

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