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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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51.夜伽

 グラケーノの復活騒動の顛末をスバルの方に報告しておかなければならない。

 とりあえず、死傷者はいないこと。今はボクに協力してくれること。

 経験不足ではあるが、驚異的な攻撃力もあること。機構権限システムコードは持っていないこと。

 えっと、あとグラケーノに聞かなきゃいけないのは…。


 夜遅くまであれこれと考え事をしていた。窓を開くと、雪が降ってきているのが分かった。

 どうりで寒いわけだ。そろそろ暖房器具を出さないとな。

 そこへ、コンコンと控えめな聞こえた。

「どうぞ」

 身を縮こませて入ってきたのは、ヒグレだった。

「遅くにすみません。どうしても眠れなくて…」

 ボクと違って真面目に寝間着を着ているヒグレでも、今夜は寒かったらしい。

「寒かったんだね。ほら、おいで」

 布団を被り、ヒグレを中へと手招く。

 ヒグレの言動が気になることもあるが…やっぱり、この子はボクが面倒を見ないとなって思ってるから。

「え、ご一緒して、よろしいのですか?」

 ぎくしゃくとした敬語に戻るヒグレ。

「なら逆に、キミはどうしてここに来たの?」

 一緒の布団で寝たいんじゃなかったのだろうか。しかし暖房器具は城外の倉庫に入れたままだし、この雪の中で取りに行くのはボクでも嫌である。

「じゃ、じゃあ、失礼します」

 もぞ、とヒグレの冷えた身体が布団の中に入ってきた。

「…ここ数日、寝つきが悪くて。普段の生活には問題のないレベルだったんすけど…」

 ヒグレが睡眠不足だったなんて。気づけなかったな。

「ちょっと怖い夢を見て。怖い大人がいっぱい来て、自分を捕まえようとする夢」

 それは過去の夢か、それとも…。

「情けない話っすよ。昔のことを思い出す度にうなされているなんて」

 それはきっと、あまりにも凄惨な記憶だからだろう。

 ヒグレはある意味、生まれ変わっている。

 しかし刻まれた記憶が、沁みついた恐怖が跡形もなく消えるなんてことはないのだ。

「ボクだって、昔の自分を思い出すのは怖いよ。今だって、ときどき魔王になったときのことを夢で見て、うなされてる」

 あの雨も、血の匂いで満ちたこの城も。はじめのうちは夢の度に食事の全てを吐き戻していたくらいだ。

「時間がゆっくりと傷を治してくれるはずだから、大丈夫。焦らなくていいよ。傷は、自分で治そうとして治せるものじゃないから…」

 一生かかっても治せない傷だって、たくさんあるのだ。

「ボクもキミの傷が治るように、頑張るから」

 それでも側にいる存在として、ボクは力になってあげたい。

 特効薬なんてない。自分で自分を受けいれて、過去を呑み込むしかない。

 

 大嫌いな自分も、目をそらしたい過去も。全部を受け入れないと、自分で自分を壊すことになる。

 苦しくて、もがいて、泣いて。その全てが必要なのだ。

 この世界では、何が正しいのか。

 絶対の正義なんてないくせに、正義の違いで争って。

 誰かにとっての悪は、別の誰かの正義だなんて日常茶飯事だ。受け入れられない正義だって、この世にはあふれてる。

 そんな中でも分かり合おうと、寄り添おうと歩み寄って。

 そのためにはまず、自分を大切にしなければならなくて。


「大丈夫、ボクがついてるから」

 そう言って、ヒグレの頭を撫でた。

「…ありがとうございます。マスター」

 ヒグレはほっとしたようで、とても嬉しそうだった。

「あの日からずっと、いやこれからもずっと。オレのマスターはひとりだけっすよ」

 その言葉は、誓いのようにも聞こえた。

「人間はこういうとき、こうやって敬意を示すらしいっす」

 ヒグレがボクの手を取り、引き寄せた。そして、そっと口づけをした。

 吐息がかかってかどうしてか、とてもむず痒い感覚がした。

「はは、やっぱり慣れないことはするもんじゃないっすね」

 ヒグレは無邪気にはにかんだ後、笑った。

「…マスターになら、話してもいいかもしれません」

 一つ、深呼吸をしてから。


「オレが、ヒグレになるまでの話っす」

 それは竜と吸血鬼のどちらにもなれなかった、小さな子供のお話だった。

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