50.せいれき
このあいだの模擬戦をもう一回みたいなと思う今日このごろ。見方によっては魔王同士の決闘のように見えるあれ。
シノ、かっこよかったな…。
戦っているときの、あの目。戦う相手としての目。
あれを私に向けることはできるだろうか。
「また今日も埋まっているわね」
中庭の日だまりで半分地面に埋まった状態のグラケーノを見つけた。
「このサイズにもようやく慣れてきての。ここは明るいし、居心地がいいんじゃよ」
あったかいのかな、と思っていたが。そういえばグラケーノに感覚器官はないんだった。
その姿は、縁側に腰かけて湯のみを持った老人のイメージと重なった。
「日がな一日ここにいるけど、退屈しないの?」
「退屈はしておらんよ。こうしているだけでも、色んな情報が入ってくるからの」
「…なら、シノの女の趣味とか分かるかしら?」
「お前さん、ワシのこと便利な検索機にしようと思っておらん?」
うーむ、とグラケーノは唸って。
「ワシが見えるのはあくまで山の記憶じゃから、個人の好みの特定はできないんじゃよ」
残念。なら本人に聞くしか…。
「ああ、そうじゃ。お前さん、百年目の子じゃろう?」
唐突に、グラケーノがそんなことを言った。
百年目の子…おそらく、忌み子のことだ。
「ええ、そうよ。それがどうかした?」
「いやなに、他の子とは随分違った雰囲気をしているのでな」
忌み子特有の気配なんてものがあるのだろうか。
すると、グラケーノは思い出したようにこちらを見て。
「お前さん、西暦何年から来た?」
それは、私には分からない問いだった。
何が言いたいんだろう、このひと。
「ああ、分からないのならいいじゃよ」
どこか驚いたような、ほっとしたような表情だった。
「そんなことより、私はシノの好みを知りたいのよ。なんとかする方法はないのかしら?」
「竜族も色々いるし、千差万別じゃからのう。とりあえず一貫して言えるのは、強い方がモテることじゃな」
なら、シノって実はモテモテなのでは…?
どうしたものか。またライバルが増えるとなると…。
「でもまぁ、強さとして一番信頼されておるのはお前さんじゃから大丈夫じゃよ」
あっけらかんとしたふうにグラケーノはそうこぼした。
「いつも私、側で立っているだけだったのに?」
自分で言うのも悲しくなるが、事実そうなのだ。
ヒグレを助けたときも、グラケーノが復活したときも。
そう考えてはいけないよ、とグラケーノは言った。
「ここぞというときに、一番近くにいる方が難しいものじゃ。あやつの性格からして、戦いにはあまり巻き込みたくないはずじゃろうし」
確かに。一緒にいることを止められたりしたことはなかったな。
このあいだも、最初から連れて行くつもりだったって。
「竜の番の条件は、戦場で背中を預けられるか、らしいしの」
シノの背中を預かるには、今の私じゃ全然足りない。
なら、もっと強くなるしかない。
命を預けられるくらい。あいつが死ぬまで私が守る。
…死ぬときは一緒。だって、その命を絶つ刃は私が握っているはずだから。
「やることは変わらないわね。ありがとう、おかげで方針が決まったわ」
「なら良かったわい。ところで、どんな方針なんじゃ?」
やるべきはもちろん、ただ一つだけ。
「私が次の魔王になれるよう、修行するわ」
これしか、私にできることはないだろう。
「…そうか」
グラケーノは悲しいような、少し辛そうな顔をしていた。
でもこれが勇者の宿命であり。あいつの願いなのだ。




