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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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49.試合

 今日は朝早くからグラケーノと模擬戦をすることにした。

 そしてこれは、まだベルの魔道具で撮影される前の話。


「やればできるもんじゃな。島づくり」

 グラケーノは地殻変動を起こして海底を隆起させ、島を作るという離れ業をやってのけた。

「自分の身体にしないと力は行使できないんじゃなかったの?」

「いや、オブジェクトデータにアクセスするのに条件はないんじゃよ。もともとワシの方が組み込まれたんじゃからの」

 これは…その気になれば今ここで世界中を大地震で襲うこともできるというのか。恐ろしいものだ。

 しかし、そんなグラケーノを封印した忌み子とは一体。

「うーん。海底を出したから、地面がごつごつしててちょっと痛そうだね」

 受け身も考えなくちゃな、と思っていると。

「なら、少し表面を変えてみるかの」

 すると、岩肌の地面が突如姿を変え…戦いやすい砂地になった。

「これはなかなかいい感じじゃろう?」

 ふふん、とちょっと嬉しそうなグラケーノ。

 しかし驚くべきは、物質を変容させたことである。

 水が氷になったり気体になったりすることはあれど、黄金になることはない。ベルが言っていた…確か、質量保存の法則とかいうやつだ。

 それを完全に無視している。この世界の法則そのものを塗り替える力。

 これが恐るべき、人間の手によって生み出された魔王。


「えーと、ワシそんな戦ったこととかないから、お手柔らかに頼む」

 できたばかりで草一本生えぬ荒涼とした島で対峙する。

 ボクはマントをチョーカーに変えた。しかしグラケーノは依然として小さい姿のままだ。

 …戦いにくいんじゃないか、と心配になったが。これも作戦なのかなと黙っておいた。

「じゃあ、いくよ!」

 掛け声をした後、突進。

 身体を捻り、全身の力を込めた拳を思いっきり振り下ろした。

 さぁどう出るか。回避にしても受けるにしてもただでは済まない一撃だが。

 景色がゆっくりと転じていく中、次の手を予測する。

 しかしグラケーノは一歩も動かなかった。

 そしてそのままボクの拳はグラケーノの無防備な背中へと吸い込まれ…。


「んぎゃ⁉」

 聞こえたのは、拍子抜けするような短い悲鳴だった。

 その直後、全身がものの見事に粉砕、爆散した。

 砂埃がはらはらと舞う中。ボクは立ち尽くしていた。

「キミ、どうして最後まで避けなかったの…?」

 すると爆散した土がもぞもぞと集まってきて。

「いや、お前さんめっちゃ速くて。びびちゃったのよ。まさか初手であんな恐ろしい一撃繰り出してくるとは思ってなくて…」

 …ボクもまさか完全に直撃して四散爆散させてしまうとは思ってなかった。

「えっと、キミ地面の材質変えれたよね?ならその身体の材質も変えられるんじゃないかな?ほら、なんかすごく硬い金属とか」

 それを聞いたグラケーノは少し考え込んで。

「なんでワシそうしなかったんじゃろう…?」

 それはボクがききたいのだが。

「材質…硬い…こんな感じかの?」

 す、とグラケーノの色が変わった。陽光を反射させる、硬質な金属質である。

「よし、かかって来るのじゃ!」

 尻尾を振り上げてやる気を見せるグラケーノ。

 なら遠慮なく。


「ワシこれどうすればいいんじゃ…?」

 数秒後、地面に頭からめり込んだグラケーノがあった。

 いやまさか掴まれてそのまま何の抵抗もせずに地面に叩きつけられるとは思ってなくて。

 硬くなったのがあだとなってしまった。身体の半分以上が地面に埋まって完全に身動きが取れなくなっている。

「うん…なんかもう、ごめん」

 グラケーノを地面から引っこ抜くとき、大根を思い出してしまったのは秘密である。

「ワシ、絶望的なセンスしておるんじゃな」

 遠い目をして笑うグラケーノ。

 どうしよう、かける言葉がない。

「…キミはやっぱり、大きな身体を使った方が戦いやすいよ」

 グラケーノの力は一対一より大軍の殲滅に向いている。速さのあるボクなんかは苦手なタイプだろう。

「なんでワシ、このサイズじゃ戦えないって気づかなかったんじゃろうな…」

 本当に戦ったことがないんだな、このひと。

「だ、大丈夫だよ。ボクが教えるから!」

 こうしてグラケーノとの特訓は続き…。


「あれは…ドローンかの?」

 ちら、と空を見やるグラケーノ。そこにはベルの魔道具らしきものがあった。

「復元できたんだね。見られてるんなら、気をつけないと」

 するとグラケーノはふんすと息巻いて。

「かっこ悪いところは見せられんな!」

 ごおっ、と巨大な尾を振り下ろした。

 食らえば城の壁すら吹き飛ばせそうな攻撃。しかしその軌道は単調で予測するのは容易だった。

「ぬぅ、全然当たらん…ならこれでどうじゃ!」

 当てることを捨て去って、でたらめに振り回し始めた。

 正直、ボクにはこっちの方が嫌だった。巨体のせいで攻撃範囲が通常のそれじゃないからだ。

 脇腹に一撃入れるも、ダメージは通らない。

 影を纏わせてもう一度蹴りを叩き込むも、効果はない。

 防御魔法の展開も早いのか…なんて思っていると。

 目をまん丸にして驚いているグラケーノと目が合った。

「…え?なにこれめっちゃ強いんじゃけど」

 …どうやら自動的に展開されるものだったらしい。厄介だ。

「だったら、物理で打撃を与えていくしかないね」

 連続攻撃を絶え間なく浴びせていくも、唐突に悪寒がした。


 その後放たれたのは、溶岩の雨。

 …反則じゃないか、これ。

 これは全力で避けた。避けないと火傷より大変な目に遭うのは目に見えていた。

「ボクだって、女の子の前で負けたくはないからね!」

 影を大きく広げ、実体化させる。そのまま変形させグラケーノを地面に引きずり倒した。

 そして、今度は身体の捻りに魔力も加えて拳を振り下ろした。


 …数秒後、ボクの手には鈍い痛みがはしっていた。

 見れば、拳を打ち込んだグラケーノの腹部が虹色に輝いてた。

 さっきとは明らかに違う感触、これは…。

「伝説級貴金属…オリハルコンは知っておるかの?」

 防御性能に優れ、攻撃を反射させるといわれている幻の金属である。

 …余計なことを教えてしまっただろうか。

 まだ成長の余地はある、ということか。


「なぁワシ降参でいいかの?もう疲れたんじゃが…」

「そうだね。ボクも疲れたかな」

 主に前半の特訓が。

「…どうやって起き上がればいいんじゃ?これ」

 地面にひっくり返ったグラケーノがジタバタとするも、ものすごい地響きが鳴るだけで起き上がれる気配が全くない。

 …音だけ聞いてれば、すごい死闘を繰り広げているように思われそうだ。

「一度全身地面に戻してから新しい身体を作った方が簡単だと思うよ」

「それもそうじゃな」

 ごごごご、とグラケーノの身体が地面に沈み込み。また例の小さい姿で現れた。

「お前さん強いのう、ワシちびちゃったぞい」

「精霊なのにちびるものなんてあるの?」

「ほら、さっきマグマが飛び出たじゃろ?あれ無意識に出ちゃったんじゃよ」

 完全に無意識でやってたのか…やられる側としてはかなり嫌なのだが。

 というかもうちょっと他の言い方はなかったのだろうか。余計食らうのが嫌になるのだが。

「尻尾も当たらんし、もうどうしようって思ったんじゃが」

 頑張って避けてただけなんだけど。たぶんボク以外なら余裕で圧殺できると思うんだけど。

「大丈夫、キミ結構いい線いってるよ」

「自信ないのう。ワシお前さんがいないとお嬢あたりに幻滅されそうなんじゃが」

 自己評価が低いなぁ…まぁ今朝の特訓前の一部始終を見られたら、誰もが絶句するだろうけど。


「あら、おかえりなさい」

 海岸まで戻ってくると、やはり三人ともいた。

「良いところで途切れちゃって…どっちが勝ったの?」

 きらきらと無垢な瞳で問いかけてくるミコト。

 …言えない。まともな模擬戦になっていたのが最後の五分だけとか言えない。

「えっと、ワシが降参したんじゃよ。その、お互い全力でやると周囲への被害がすごいことになるからの」

 あ、ちょっと誤魔化したよこのひと。話を盛っちゃったよ。

 確かにそれも事実ではあるが…。

「飲み物持ってきたんで、どうぞ」

 ヒグレからタオルと一緒に飲み物をもらう。汗をかいていたからすごく気持ち良い。

 うん。ヒグレはいい子だと思う。そこは変わらないでいてもらいたい。

「…汗って何だか興奮するものがあるわよね」

「そうっすね。こう、垂れるって感じがいいすね」

 お願いヒグレ。そっち側に行かないで。

 妙な熱視線を送ってくる二人から目をそらし、タオルで汗を拭った。


「グラケーノさんの攻撃もなかなかでした。妾ではあそこまで火力を出すにはかなり骨を折るのですが…」

「あー、うん、すごかったじゃろう。ワシ頑張ったもん」

 ベルの尊敬の眼差しから逃げるグラケーノ。

 頑張ったのは事実だけど。ちびっただけとは言えないよね。


 戦闘に関してグラケーノは、みんなが思うよりずっとポンコツであることが分かった。

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