47.生活
グラケーノ復活騒動から少し。
竜に人間、悪魔にハーフ。そして精霊。
そこは多種多様なこの国を象徴するかのような空間で。
「あなたもご飯は食べない派なのね」
「口に入れることはできるが、消化器官もないし味覚もないからの。強酸性の液体で無理矢理溶かすことはできると思うが…あんまり楽しくないしの」
精霊は魔族とも違う。
ボクの機構権限が効かなかったのがその証拠だ。
「最近、料理の腕が上がってきたね。ヒグレ」
「そう言ってもらえると嬉しいっすよ」
今朝の炊事はヒグレの担当らしく、アカツキ風の献立である。
卵焼きと焼き魚、おひたしに白米。
そしてなんといっても、この味噌汁が絶品なのである。
「キミの味噌汁なら毎日飲みたいくらいだよ」
と、素直に感想を伝えてみたところ。
「ま、毎日っすか?」
ぽややと顔を赤くして、目を泳がせ始めるヒグレ。
…何だろう。ボクの横から殺気が。
「あんたってやつは…私というものがありながら…!」
ボクそんなにおかしなこと言っただろうか。
「お待ちくださいお嬢。深い意味はありません」
勇者でありながら鬼のようなオーラを放つミコトを制すベル。
「えっと、あ、毎日じゃなくてもいいんだよ?ほら、ヒグレにだって休日は必要だし…」
ミコトが何に怒っているのか分からないため、当たり障りのないことを言ってみたわけだが。
「この無自覚が…!」
何故かより怒らせていた。どうしてだ。
「マスター、あの、そういう意味じゃなくて…」
ならどういう意味なのか。
すると、見かねたらしいグラケーノがボクの肩に乗って。
「お前の味噌汁が飲みたいっていうのはな、遠回しな愛の告白…伴侶になってくれ、という求愛の意味を持つんじゃよ」
…え?そんなのあったの?
ボクはなんてことをしてしまったんだ。
まずい。どうしようどうしよう。ヒグレになんて謝ればいいんだ。
「…オレなんかで良ければ、喜んで」
何でこの子は否定しないんだ。というかちょっと嬉しそうなんだが。
「嫌なら嫌って言っていいんだからね?ボクはそんなに気にないから、ね?」
「…気にして欲しいっす」
どうしてか拗ねてしまったヒグレ。何がどうなってるんだ。
「なら私も味噌汁を作るわ。同じ台詞を言わせてみせる」
「待って下さい。このあいだパンケーキにヒュドラの血を混ぜようとした人は厨房に行かせられません」
ヒュドラといえば猛毒モンスターの代名詞。その血を浴びれば骨まで一瞬で腐り果てるのだという。
またも暴れ出しそうなミコトを止めるベル。強くなったなぁ。
「だって…甘くておいしかったから、隠し味にと思って」
毒無効のミコトの口に入るのは一体どんなものだというのか。
「おいしいついでに毒殺できるかなって、気になったから…」
殺意があるのは大変素晴らしいが。それを堂々と言っちゃっていいいのだろうか。
まぁ、それがミコトらしいが。
…口に入れる前に匂いで気づかれるって、分かり切ってるはずなのに。
「お前さんも苦労してるんじゃのう」
「ミコトはいつも通りだけど、ヒグレがちょっと…心配するなら打開策を考えてくれないかな?」
策といってものう、と頭をひねるグラケーノ。
「そうじゃ、いっそのこと全員娶るというのはどうじゃ?」
飛び出した意見は明後日の方向に、予想の斜め上を振り切っていた。
無茶にもほどがある。
「我ながら良い案だと思うんじゃが」
「いやちょっと待って。確かにこの国では種族によっては一夫多妻も認めけど。それをボクが受け入れるかは別問題で…」
多様性を認め合う国として、異種族婚や同性婚も認めている。が、それは双方の了承があってこそである。
竜族は繫殖能力の低さや習性から、一夫多妻も認められている種族だが。
「婚姻届ってどこにあるのかしら?」
早速ボクの意思が無視されそうになっている件。
「東の突き当りの三階。右の部屋のたんすの三段目です」
どこからツッコミを入れればいいんだろう。なんでこの城の中にそんなものがあるんだ。
「難儀しておるのう」
「他人事だと思ってるでしょキミ」
ぬほほと笑うグラケーノ。絶対楽しんでるなこれ。
…まぁ、そういう可能性がないわけではないが。
今のところ、ボクに打開策なんてなかった。




