43.謁見
王都の対処はベルに任せて、ミコトと二人で三代目のところに行くことになった。
敵か味方か。全く分からないが…なるべく早めにベルの方に合流したい。
…ミコトも無事に生き残れたら、だけど。
封印を解いた者の狙いは、おそらく。
「山に受肉したってところかしら?」
見えてきたのは、大きくせりあがった山。
山が生きているというか、足が生えたというか。竜のようにも亀のようにも見えるその姿は、見る者全てを圧倒した。
本来、悪魔や精霊は身体全体が魔力で構成されている。
が、人間に作られた三代目の場合は違う。土や岩に魔力を流し、自分の身体にすることでしか力を行使することができないらしい。
封印は、そのつながりを断つものであった。その枷がなくなった今、力の影響範囲はどこまで広がるのか全く予想できない。
「こっちが頭なのかしら?」
高度を下げ、目線を合わせる。
地面からは見えないような位置にあるのは、翠色の双眸。
森の色を閉じ込めた宝石のような瞳。殺意や敵意は一切感じられず、とても穏やかな感情を見せていた。
ただぼんやりと山々を見つめ、懐かしんでいるようであった。
「…これ、私たちのこと見えてないんじゃ…?」
こんなに近くにいるのに、ボクらに全く反応を示さない。
…体格の差からだろうか。
「斬りかかる?」
ちゃき、とハクジツの刃をちらつかせるミコト。
「こちらに敵意があると誤解されるとまずい。まずは対話を試みるべきだ」
しかし拡声器も持ってきていない。影に入れておくべきだったか。
とりあえず、大声で話しかけてみる。
「あのー!ちょっとー!お話ー!いいですかー!」
自分でもちょっとかっこ悪い気がするけど。仕方ないよね。
すると、ぐぐぐっと頭がこっちの方へ向いた。そして今更驚いたように目を見開いた。
こんなに鈍いのに魔王になれたのが本当に不思議である。
「これは失敬。いやぁすまんのう。五百年ぶりの外の世界がつい嬉しくて…初めましてですじゃ、魔王様」
穏やかな好々爺といった雰囲気。
一触即発というわけではないことに、ひとまず安心した。
しかし、最後の言葉が気になった。
「こちらこそ初めまして。ボクは八代目魔王シノ。どうしてボクが魔王だって分かったの?」
口調は戻して、平然を装って。でも内心かなり驚いてる。
ボクが魔王になったのは、三代目が封印されてから二百年も後のことなのである。知っている方がおかしいのだ。
「そりゃあ、お前さんが首にヨイヤミをつけておるし…ワシと同じ気配がするからの」
魔王の証とされる神器。姿を変えるこれを一瞬で見抜ける眼力があるとは。
同じ気配ってなんだ?魔王としての気配か?
…前言撤回しよう。元魔王は侮れない。
「それにワシは…山の大精霊じゃからの。山が知っていることはワシも全て知っておる」
山に蓄積された記憶が読めるというのか。文献にも記されていない能力である。
「そちらの可愛いお嬢さんは、今代の勇者様じゃろう?」
思わぬところをつかれ、目を丸くするミコト。
「魔王様のお友達、ミコトじゃったかの?」
「…全てお見通しってわけね」
友達、すごくいい響き。
ボクのこと、友達って思ってくれてたんだ。嬉しいな。
「そう、私の名前はミコト。あなたの名前は?」
三代目は目を閉じ、しばしの間の後。
「ワシの名前は…」
文献に記されていた名は、確か。
「ワシの名はグラケーノ。遠い昔の魔王じゃよ」
あまり多く語られない、謎に包まれた存在である。




