42.たいおう
突如として大地を襲った激震。
混乱の中、導き出されたのは三代目魔王の復活に可能性。
シノも魔王として、本気で思考を巡らしていた。
「ベル」
シノの足元に転移の魔法陣が浮かび、ベルが姿を現した。
「はい、ここに。震源地が割り出せました。ここより西北西、アルフーレ山脈の麓です」
「ちょうど封印の祠があるあたりだな…進行方向は?」
「未だ不明です。一度目の揺れから、活動を再開する兆しはありません」
無言で集中するシノ。目は真剣そのものだった。
「王都へ伝達。最大警戒緊急処置の実行だ」
「承知しました」
腕時計で魔法を展開し、すぐにメッセージを送るベル。
「防御結界の起動、住民は屋内に避難。百年ぶりの発令だ、おそらくパニックになる。ボクが制圧に行けたら良かったが、この状況じゃ無理だ」
少し悔しそうな表情だった。
…シノは三代目魔王の方を対処する気のようだった。
「ベル、頼めるか?」
「御心のままに。しかしなるべく早く合流していただきたいです」
「…分かっている」
パニックになって指示が全く通らなくなった場合、集団というものは何をしでかすか分からない。
また魔法陣に消えたベルを確認し、窓の外を睨むシノ。
方向は、例の封印がある方である。
「大きさは山一つ分ってとこか…機構権限は二分されてないし、王位は失った状態か…」
山一つ。そんなに大きなモンスターは見たことがない。
「ヒグレ、今の三代目の魔力はどうなっている?」
「えっと、薄く広範囲に魔力を拡げている感じっす。魔法を起動する兆候はないっす」
魔力感知においてはシノを抜く力を見せるヒグレ。
「そのまま感知続けて、何かあったらこれで連絡してくれ」
ずぼ、と自らの影に手を沈めて取り出したのは通信用の魔道具であった。
…あの影の中には一体どれだけのものが入っているのだろう。
「了解っす」
受けとった魔道具を胸元にしまうヒグレ。とても緊張した面持ちだった。
「…そんなに怖がらなくて大丈夫だよ」
普段の口調に戻し、表情をゆるめた。
あの口調は、自分を律するためでもあるのだろう。
「ボクはちゃんと帰って来るから、心配しないくていいよ?」
ヒグレの頭を撫でるシノ。
「…私も行くわ」
こんなところで突っ立ってなんかいられない。
私のは戦う力しか与えられていない。なら、戦場に赴くことこそが私の使命だろう。
「戦闘になるかは分からないよ?」
「ならないなら、それでいいのよ。もし戦闘になった場合、王都に向かわないように足止めくらいしてやるわ」
私の力でどこまでできるのかは分からない。
でもやらないで後悔するのは御免だ。
「もし邪魔になったら、大魔法に巻き込んでもかまわないわ」
足手まといになる可能性だって十分に考えられる。むしろ私なんかがシノの助太刀なんてできるのか…。
でも、シノはにっこりと笑って。
「キミは止めても聞かないだろうからね。最初から連れていくつもりだったよ」
なら最初からそう言ってほしかった。私の覚悟が半減してしまうじゃないか。
…でも、ちょっと嬉しい。シノに頼られてるって思うと。
私ってこんなにチョロい女だったかしら。
「目的地までは飛んでいく。強すぎる魔力が展開されていたら、転移魔法も失敗する可能性がある」
転移魔法の失敗。それは死に直結するのだとか。
転移されられるはずの身体が、魔法の途中で分断されてしまうと。
目的地にやってきたのは、元は何だったのかもわからぬ肉塊で…という伝承もあるのだ。
しかし…。
「ちょっと待って。私、飛べないんだけど」
勇者といえ人間なので、翼が生えたりはしない。魔法を使えばできなくはないらしいが、私は魔法は空っきしなのだ。
「そうだね…ボクの背中で我慢してくれる?」
目の前にしゃがみこんだシノ。
しゅる、とマントがチョーカーに姿を変えた。便利な神器である。
露わになった背中はたくましく、頼もしかった。
「行くよ、ミコト」
見つめられて、名前を呼ばれて場違いに嬉しくなってしまう。
無言で頷くき、ゆっくりと背にしがみついた。
「振り落とされないでね!」
ばさ、と大きく翼が開いて。
窓から目的地まで一直線に飛び出した。




