幕間1.暗躍する者
とある暗がり。虫の声も届かぬ中、話をする影が二つ。
「まだ取り返せてねぇのかよ。使えねぇゴミばっかだな」
ちっ、と悪態をつく者が一つ。
「申し訳ございません。監視を続けているのですが、四六時中護衛がつけられていまして…」
身を低くし、報告する者が一つ。
「手段は選ぶな。半殺しにしてでもオリガミを取り返せ。あれは今後の計画の重要なキーだ。ヤツの陣営に取り込まれるのは絶対に阻止しろ」
「承知しました。しかしあれには自我があります。こちらの要求を素直に飲むか…」
「俺様を誰だと思ってやがる。取り返せさえすればあとはこっちのもんだ」
君主は不機嫌ながらも自信ありげに言った。
「あれに刷り込まれた恐怖は一朝一夕で克服できるもんじゃねぇ。今ある自我も所詮作りもんだ。突けば簡単に壊れるさ…たとえ、魔王の機構権限だとしてもな」
確信し、自身の推論を疑ってもいなかった。
「人間側の機構権限の半分は俺様が持ってんだ。多少の騒ぎはもみ消せる。人間にしか効果がないのが残念だがな…」
自身の力に不満を持っているようであった。
「逆に魔王の機構権限の範囲が人間にも効果ありだったらヤバいよな…俺様でも身体の強制操作は一人が限界だってのに」
お互いに範囲を絞ってるってことか、と君主は言った。
「能力もあらかた取得できた。問題はオリガミだけだ。あれを決戦兵器にすることができればいいが…もし奪還が不可能なら、せめて戦闘不能にしろ」
「戦闘不能とは?あれには再生能力まであるそうですが…」
「どっか遠い海にでも捨ててこい。前線に出させるな」
君主はそこでまた一つ思案して。
「オリガミを引き金にしてやるのも手だな…理屈がめちゃくちゃでも、この権限さえあればどうとでもなるしな」
その表情は濁った欲望を露わにしていた。
「で?もう一つの方はどうなった?」
「内通者として王都連絡を取り合ってはいますが、任務を果たすめどは立っていないようです」
「所詮は英雄の成りそこないか…あの出来損ないが俺様の機構権限の半分を持ってると思うとほんと許せねぇ」
君主は苛立った様子で鼻を鳴らした。
「あの計画を実行する。調べはついてるんだよな?」
「はい。ですが向こうに気づかれている可能性があります」
「こっちの考えを読んでるなあのジジイ…で?ヤツは何をしていた?」
「例の場所に向かい、近くの宿に泊まったようです。本当に酒で酔うのか、毒耐性が封印されているのか確認したかったのですが…遮音結界を張られてしまいまして。向こうにもなかなかの魔法使いがいるようです」
「そこまでして隠したいんなら、決まりだな。ヤツに対しては毒攻撃で攻める。そう手配しておけ」
「…本当に成功するのでしょうか?」
「俺様を歴代のやつらと一緒にしてもらっちゃ困る。ヤツの所持している能力や性格も割れてんだ。同じようなヘマはしねーよ」
はぁ、と君主は溜息をついた。
「死んで転生したってのに、失敗して死亡ルートとか笑えねーし」
その目はどこか遠くを見ていた。
「魔王なんかが好き勝手するのも我慢できねぇ。こんな世界、ぶっ壊してやる」
理不尽に嘆いているようにも見える表情。
「この世界の主人公は俺様一人で十分だ。いや、俺様が主人公になれない世界なんざいらねぇんだよ…そうだよ、壊してしまえば俺様が主人公になれるんだよ」
主人公という言葉にとり憑かれているようであった。
「ったくチートスキルが半減されて異種族ハーレムも作れねーし。運営がいたらクレームつけてやりたいぜ。セーブもできねぇなんてクソゲーかよ」
それは、この世界の住人には分からない表現だった。
「ケモ耳少女が仲間になるイベントもねーし。デブなジジババ共に愛想よくするのも限界だっての」
環境を恨んでいるような言葉だった。
「あの封印を解く。んでパニックになったところを…国盗りってわけだ」
失敗するわけない、という態度。
「十五年も待ち続けたんだ。平和なんて生温い世界ぶっ壊してやる。経験値集めの…戦争だ」
そう言って、少年は邪悪に嗤うのであった。




