39.飲酒
風呂で大騒ぎしたが、最終的にはミコトが女湯に戻ってくれたので一件落着。
…まぁ、また勘違いが深まってしまった気がするけど。
とりあえず風呂からあがり、部屋に戻ることにした。
「有翼種用の浴衣かぁ、ボクが着れる服があるなんて。ちょっと新鮮だね」
ほかほかの身体で冷たい牛乳を一気飲み。最高だね。
「湯冷めしないっていいっすね」
長いたてがみを拭きながらヒグレが言った。
「ねぇミコト、浴衣ってこの着方で合ってる?」
「あんたはいつも裸マントなんだから気にしなくていいわよ」
むす、とやや不機嫌そうなミコト。
「なんで男物を…こっちの方が可愛いのに…」
うん、聞かなかったことにしよう。
「そこはまた作戦を練って実行すればいいでしょう。ほら、もう夕飯が来る頃ですから」
ぽん、とやさしくミコトの肩に手をおくベル。
仲良くなったのは嬉しいが…何だろうこの胸騒ぎは。出会ってはならない何かが結託したような…。
部屋に戻ると、すぐに料理が一面に並べられた。
刺身に天ぷら、炊き込みご飯とご飯とすき焼きと…四人で食べきれるのかというほどのご馳走であった。
「どうぞお召し上がり下さい」
一礼し、速やかに立ち去る女将。
いただきます、と四人の声が重なって、全員がてんでばらばらに手を伸ばす。
刺身は歯ごたえがあって、天ぷらは衣がさくさくと良い音がした。
どれもやさしい味付けで素材の良さが際立っている。ボクはこういう味が好みだ。
「マスター、これってどうやって食べればいいっすか?」
ヒグレが示したのはカニ。普通のものよりも大きく、明らかにモンスターである。
しかしボクも見たことがあるだけで、食べたことはないのだ。
「ボクも分かんないなぁ、ミコトは?」
「そんなの、殻ごと食べるに決まってるじゃない」
忘れてた。食べ物に関してはこの子はあてにしちゃいけないんだった。
「ここに切れ目が入っているので…こう、割って食べます」
ばき、と見事に実演してみせるベル。流石だ。
…人間の国に潜入させたこともあるし、そこで覚えたんだろうな。
そして一時間ほど経った頃。
皿は美しいほどに空っぽにされていた。
「では食後にこちらをどうぞ」
差し出されたのは果実の盛り合わせと…酒だった。
「当館自慢の、アカツキ国から直送の酒でございます。ぜひご堪能下さい」
まずいどうしよう。ボクお酒飲めないのに。
でも期待に満ちた女将の視線が辛い。断れない。
「こんなに良い酒、二度と飲めないわよ?」
ぐび、と先に一杯飲んだミコト。
未成年飲酒なんじゃ…いや、この子状態異常無効だった。
「大丈夫です。このために妾が来たのです」
まぁ、ベルがいるなら大丈夫かな。
…ボクが酔っ払っても、ベルならちゃんと仕事してくれるだろうし。
何より、ボクのお世話もきっちりしてくれるし。
ボクの酔っぱらった顔を見て楽しむのはどうかと思うけど。
「じゃあ女将さん、水割りしてくれる?」
「かしこまりました」
とくとくとく、という音に胸がおどるのを感じた。
つん、と酒の独特の鼻をつくような匂い。それだけでふらっとしかけるが、ここで止まるわけにもいかない。
一口だけ流し込んで…そのまま一気に飲み干した。
口に広がる甘味と辛味。喉をひりつかせるような熱。
身体が一瞬で熱くなって、意識がふわふわとし始めた。
「うん、すごくおいしいよこれ、ありがとう」
なんとか意識を引っ掴んで、先にお礼を言っておく。
「ではここからは妾がお酌をしましょう。女将さんはもう戻られて大丈夫ですよ」
「え?あ、はい。失礼します」
女将からさらっと酒瓶を奪うベル。
女将の姿がふすまの向こうに消えてから、深く息を吐く。
「…もう大丈夫です、陛下。念のため遮音結界も張っておきました」
本当に仕事ができる子だなぁ。
そう思うと、ふっと緊張の糸が切れて。
「ありがとうベル!大しゅき!」
むぎゅ、と感情のままにベルに抱き着いて。
…ここから先の記憶は残っていない。




