30.きけん
今日はいい天気ということで、みんなで出かけることになった。
まぁ、内容は食料調達、狩りなのだが。ついでにギルドからの討伐クエストもやろうかという話になった。
魔甲蟲という虫のモンスターの群れの討伐。毎年この時期になると畑などを荒らしに人里近くまでやってくるのだ。
大きさは人間の子供くらいで、民家を襲撃することもある面倒なモンスター。蟲系統は毒を持つものもあり、全体的においしくない。
迷いの森を進むこと一時間ほど。順調に木の実を集めていたところで、遠くから羽音が聞こえてきた。
見上げた空には大量の蟲が飛び、黒い嵐のようになっていた。
…思っていたよりも数が多い。
ここまで大群になってこっちに向かってきているのは…この面子がどれだけ危険なのか本能で察知したからだろう。
子孫のため、外敵を減らそうとしているのだ。
しかし…今回は相手が悪すぎた。
さて、暴れてやるかと愛刀の柄を握ったとき。
「妾がやりましょう」
意外にもベルが一歩前に出た。
「…大丈夫なの?あなた、前線で戦うタイプじゃないでしょ?」
「ご心配なく。妾も大悪魔ですから」
いまいち返事になっていない気がするのだが…。
「ちょうど新作も試したかったので」
かちゃ、とベルの腕時計が鳴り、光と共に武器が召喚された。
「六の刻・リュウセイ」
現れたのは銀色の銃であった。細長く美しい形をしていて、並々ならぬ存在感を放っている。
ベルが弾を込めると黒い模様が浮かび、宙にいくつもの魔法陣が描かれた。
これは尋常じゃない魔法制御能力が必要な高等技術である。複数の魔力回路の微調整を同時に行っているのだ。
知識はもちろん、練習量も想像を絶するものになる。
…それを顔色一つ変えずやってのけるメイドとは一体。
「【発射】」
青い空を駆け抜ける、黒い流星。
途中で何度も分岐して、より多くの蟲を撃ちぬいた。
血を噴き上げながらぼとぼとと地面に落ちていく蟲たちの死骸を、私は呆然と眺めていた。
「まだ二百匹程度ですか。しかしこれ以上の広域殲滅となると、地上への被害が出るかもしれませんね…」
次弾を装填し、またも蟲の群れを削っていくベル。
「…あれ、何なの?」
あれ、というのはベルとその武器両方である。
「ベルのお手製の魔道具だよ。あらかじめ術式を組んで武器に付与しておくの。発動魔力も装填式にして、効率よく殲滅するんだって」
ベルが前線に出ることを全く気にしていないシノ。
ヒグレも似たようなもので…あれ?心配してたの私だけ?
「効率よく殲滅とか初めて聞いたわ…」
確かに地上を走り回って、降りてきたやつを斬るよりも断然早い。
ベルの実力は魔道具抜きでは考えない方がよさそうだ。
「あの弾はボクの魔力で作ってるんだよ。だからベルの魔力も消費しないし、単騎ではありえないくらいの高火力になってる」
悪魔は基本魔法攻撃。悪魔の身体では物理的な攻撃は出しづらいからである。
が、魔力を消費するのは命を削るのと同義である。
だからこそ悪魔は戦いを好まないのだ。
しかし武器で魔力を装填式に、しかもその弾丸を他人のものにしてしまえばその危険性はなくなる。
…これが大悪魔ということか。シノが手元に置いておく理由が分かった。
「あ、オレも行っていいすか?」
「ええ、当たらないように気を付けてくださいね」
了承を得るや否や、ヒグレの身体が空へ飛んだ。
「あの子…飛べたっけ?」
これにはシノも目を見開いた。
魔法や道具を使っているわけではない。ヒグレには翼がないはずだが…どうやって?
「まさか、あれ…糸?」
シノの言う通り、よくよく見るとヒグレの手足から細い糸が出ているのが分かった。
糸の先は空中に固定できるらしく、長さを調節して身体を引っ張っているようだ。
…そういえばあの子、機織り機とかも使わずに布を完成させていた。
本で調べたにしても限界はある。
…なら、あの子はどこで布の織り方なんかを覚えたんだ?
「飛ぶ方向は直線的だけど、急旋回されると動きの予測は難しいね…」
口ではそう言っているが、意識はどこか別の場所にあるように思えた。
「今日はマスターもいるし、かっこいいとこ見せたいっすね!」
ヒグレの五指から糸が放たれ、白い光を帯びた。
すると糸は恐ろしいまでに加速して、蟲たちの羽を次々と切り裂いていった。
「…吸血鬼の能力?いや、だとすると…」
シノも真剣に分析しているようだった。
威力が足らず致命傷は与えられないか…と思っていたら、今度は糸が黒い影を纏い、触れるだけで蟲の硬い外殻を砕いた。
瞬く間に身体が爆散し、絶命していく蟲たち。
今のは…糸の性質が変わったのか?
黒い糸になった瞬間、減速したように見えたし…。
ま、まさかこれって。
「…私たちの魔力を、糸に付与してるってこと?」
そう考えるしかないね、とシノは溜息をついた。
「他人の魔力を制御するなんて、難しいだろうに…逸材だね」
でもどこか嬉しそうにも見えた。
ちなみにベルもずっと魔法を撃ち続けている。それを全て回避しながら攻撃をしているヒグレが本当に恐ろしい。
…どこでそんな戦闘技術を得たというのか。
そしてひとしきり蟲を一方的に討伐した後、残党が森の奥の方へと逃げ帰るのを眺めながら。
「二千は狩りましたね。よくやりました、ヒグレ」
「先輩がいてこそっすよ!あ、マスター!ちゃんと見ていてくれましたか⁉」
褒めて褒めて、と尻尾を振るヒグレ。
「もちろん見てたよ。すごかったね!」
えらいえらい、とでも言うようにヒグレの頭を撫でるシノ。
…ちょっと羨ましいと思ってしまったのは秘密だ。
私ももっと強くならないと、と密かに胸に誓うのであった。




