29.菓子
秋。それは食の季節である。
草木は冬の前に種を残すため、実をつくる。あるものは地に落ち、またあるものは動物たちの糧となる。
そして、おいしいお菓子ができあがるのだ。
「お、張り切ってるね」
ぱたぱたと厨房で作業をしていたヒグレが振り返った。
「今日は栗が採れたんすよ。お嬢がイガごと食べようとしたんで、大慌てで止めたんすけど」
あの子もかなりの野生児だ。このあいだも毒キノコ食べてたし。
無効化できるからってなんでも食べていいわけじゃないと思うんだけどなぁ。
「いつかマスターよりもおいしいものを作ってみせるっすよ!」
ボクが作ったお菓子よりも、の間違いじゃないだろうか。
そういえば甘い魔力って言ってたっけ。お菓子っぽい味なのだろうか。
「あら、先客がいたのね」
真新しいエプロンを引っさげたミコトがやってきた。
「あ、それ着てくれたんすね」
「着るためにあなたに作ってもらったのよ。似合うかしら?」
ベルが着ているものと比べると、可愛らしいデザインをしている。ところどころにリボンがあしらわれ、花の刺繍まで添えられているのだ。
よし、ここは素直に言っておこう。
「うん、可愛いと思うよ」
何故かミコトは勝ち誇った顔をしていた。
「ねぇヒグレ。ついでにもう一着作ってくれないかしら。シノにも着せてあげたいわ」
「そうっすね。あ、でもマスターの採寸まだやってないっす」
懐を探るヒグレは、何の違和感も感じていないようだった。
「あの、ヒグレ。ひょっとしてミコトと同じデザインでやろうとしてたりする?」
「そのつもりっすけど」
説明しよう。ボクは常日頃から女の子扱いされることが多いが純然たる雄である。
「ボクは男だって何回言ったら分かってもらえるのかなぁ…」
「分かんないわよ。人間の男みたいに分かりやすくぶら下がってくれてたらよかったのに」
この子はもう少し色々と配慮するべきだと思う。オブラートに包む気があるのかないのか分からない。
「というか、その布ってどうやって裁断するの?普通のハサミじゃ切れないよね?」
「ハサミに魔力を込めてやるんすよ。物理には強いんすけど、魔力には弱いんで」
内側から流す分には問題ないが、外部からの魔力干渉には弱いのだという。
そんな特殊な糸をエプロンに。素晴らしい才能の無駄遣いである。
「私もお菓子作りをしたいの。手伝っていいかしら?」
「大歓迎っすよ。じゃあ、その卵を混ぜておいてほしいっす」
人間用の倍以上ある調理器具を難なく使いこなすミコト。普段から馬鹿でかい太刀を振り回しているからだろうか。
ただ一つ気になることがあるとすれば。
「なんか光ってない?」
ミコトが混ぜている卵液が真っ白な光を放ち始めているという点だ。
「魔力を込めて作ろうと思ったのよ」
「込めるのは真心とかじゃないのかなぁ」
食べたらどうなるんだろう。ボクだとお腹壊すかも。
…ヒグレはどうなんだろう?
ヒグレは興味本位といった感じで、光の魔力入り卵液をスプーンですくって。
「刺激的っすけど…これはこれでアリっすね。スパイシーな感じで」
「じゃあ、これからは私の魔力も分けてあげるわ。甘いものばかりじゃ飽きるでしょう?」
こうして、ミコトの魔力も取り込むようになったヒグレ。
…このときはまだ、その能力の底を甘く見ていたのだ。




