27.願望
ミコトに打ち明けたのは、ボクの願い。
それは偽りのない本心で、ボクの命の終着点だった。
「大きな力は争いを生む一方、抑止力ともなるんだ。皮肉な話だと思わない?」
人間の大軍を皆殺しにした。でも勇者だけは生かした。
それは、ひとえに魔王という存在の恐ろしさを人間たちに教えるため。
「確かにそうね。魔王軍抜きでこんな脅威になる魔王は他にいないわ」
魔王軍とは、その名の通り魔王直属の軍隊である。
今、それが失われているのは…ボクが消したから。
文字通り、一人残らず。
そうなれば当然、民の怒りも買うわけで。
軍人といえど家族があり、愛があるからだ。
「あんたの目、赦しの証って呼ばれているのでしょう?」
それはまだ魔王になって間もない頃の話。
家族を失った民たちが、魔王を討たんと蜂起した。
ボクは迎え撃つでもなく、ただ静かに見ていた。
真っ赤に濡れた城の前で。
何をすればいいのかも分からず、座り込んでいた。
石を投げられ、ナイフを振り下ろされた。
鱗に一切傷はつかないのに、胸がひどく痛んだ。
しばらくすると、民たちは何もできなくなった。
民たちも、自分たちが何をしたいのか分からなくなってしまったのだ。
どうしようもないやるせなさが、身に重くのしかかった。
…だから両目を抉り出した。
自分でやるしか、方法がなかったのだ。
視力を失って、手のひらに自分の血の生温い感触だけがあった。
贖えない罪を許してくれとは言わなかった。
…すると、ある子供が薬草を持ってきた。
「痛いのは、苦しいでしょ?」
少し辛そうな声で、ごく当然のことを述べた。
それにつられるようにして、大人たちも傷薬や回復薬を差し出した。
そして民たちの懸命な治療によって、この目は復活したのだ。
「ボクには再生能力はほとんどないんだよ。せいぜい人間の成人くらいの速度。眼球の修復なんて、何百年かかることやら」
いや、一生の傷になる可能性の方がよっぽど高い。
正直、想像以上に痛かった。でもあのときは、もう何もかもどうでもよかったのだ。
「…みんなはボクを赦し、治してくれた。だからボクも恩を返したいんだよ」
争いは争いを生む。もう二度と争いは起こさせたくない。
…そんなの夢物語だって分かってる。失敗だって何回もした。
それでも諦めたくないのだ。
七代目の憤怒の魔王…各地で頻発した内戦を弾圧するため、強い力を求めた者。
当時不安定だった国への不安や怒りの感情から生まれた、憤怒の大悪魔。
炎を操る力を持ち、力のために多くの民を生贄とした。
…そのうちの一つが、北竜の里だった。
でも死ぬ直前、奴は笑っていた。
「ああ、やっと死ねる」
その瞬間は、言葉の意味が全く分からなかったが。
奴と同じになるのはまっぴら御免だ。
だから、自分で自分を殺せるだけの者を育てる。
「ボクは魔王としての使命を全うする。その中にはもちろん、後継者探しも含まれているんだよ」
ミコトは唇をかたくつぐんで、真っすぐにボクの目を見ていた。
「だから、キミがボクを殺してくれるのを楽しみにしてる」
ひどいことを言っているのは重々承知している。
でもミコトならやってくれるかもしれないと期待してしまうのだ。
十年間ボクに全てを懸けてくれた彼女なら、と。




