2.かいこう
少女視点です。
迷いの森に入って何日か経った。
モンスターを狩り、食べてを繰り返す。
そんな中見つけた、一匹の狼。
すぐに仕留めたが、問題はその後だった。
竜と遭遇してしまったのだ。
夜空を思わせる、光沢のある黒鱗。白亜の角に、満月のような金色の双眸。肩にかかったマントは漆黒で、かなりの上物のようだ。
魔力の気配が全くない…子供か?
いや、私の1.5倍くらいの巨躯で子竜なわけがない。
となれば、実力を隠しているのか。
面白いじゃないか。
そういうタイプはかなり知能が高く、強い。
この身に流れる戦士としての血がざわつくのを感じた。
だから、殺し合いをしないか、と問いかけてみたが。
「え…え?」
竜はおどおどと言葉を濁すばかりである。しかも、人違いじゃないかと周りを見回す始末。
「ええ、ね。なら遠慮はしないわ」
否定でなければ肯定。これが私の考え方だ。
「ま、待って!一旦話を…」
竜の言葉に耳を貸さず刀を大きく振り上げる。
竜の鱗の強度は尋常じゃない。さっきの狼の何倍も硬いだろう。上位の竜ともなれば、その力は計り知れない。
ならば、全力でいくしかない。
「【炎天】!」
血を吹き飛ばし、白く輝く刀身。
太陽の紋が熱を帯び、空気が焦げる匂いがした。
我が一族に伝わる剣技。その奥義である。
数多のモンスターを一撃で屠ってきたその技をためらいもなく全力で放った。
圧倒的な光の瀑布が周囲を呑み、刀は寸分狂わず竜の脳天を打ち抜いた。
…そのはずだったのに。
私の目の前にあったのは、尻もちをついた竜だった。
傷一つなく、目をまん丸にして驚く竜が。
信じられなかった。この目を疑った。
身体が重力に従って落下し、着地に失敗して肩を強く打った。
全身に響く痛みも、まるで感じられなかった。
ただ、現実に呆けていた。
己の力を全て出し尽くし、まともに動けない。
倒れて地面に這いつくばる私の目にうつっているものは、絶望といわずして何というのか。
この森では勝てなければ負ける。負ければ死ぬ。
それが絶対のルールだ。
…弱者の味方が都合よく現れるなんて、本当に奇跡なのだから。
今の私は誰にも負けないくらい強いと思っていた。
でも、それは大間違いだった。
上には上がいる。それだけだった。
死を感じ、目を閉じかけた私に声が降ってきた。
「キミ…大丈夫?」
覗き込んでくる竜の顔はひどく心配そうだった。




