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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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26.ひあい

 語られた物語は、ひどく悲しいものだった。

 いつもと違い、シノの声は淡々としていて…表情は少し辛そうだった。


「…嘘ではないようね」

 自身の力を示すため、事実を歪めてしまうのはよくある話。

 でも語っているときのあの目は、痛々しいほどに思い出している姿は、きっとはりぼてなんかじゃない。

「八代目、夜天の魔王…人間との共存を実現させたのはあんただけよ。誇りに思っていいと思うわ」

 私がそう言うと、シノはほっとしたように笑った。

「キミ、意外と優しいんだね」

「意外とって何よ?私だって道徳心くらいもってるわよ」

 日はすっかり暮れて、星がよりいっそう綺麗に見える。

 

 シノが夜天の魔王と呼ばれる理由。

 それはひとえに、その力の象徴である。

 忌み子と呼ばれる勇者が二百年前、百年前に一度ずつ大軍を率いてラグナロストに攻め込んだらしい。しかし、その両方が全滅させられたそうだ。

 夜を操るとさえいわれている大魔法。夜のあぎとに喰われれば、何者であっても抜け出すことはできないという。

「あんたの力があれば、世界丸ごと手に入るんじゃないかしら」

「そんな大変なことしないよ。第一、それをしようとした二代目は失敗してるんだから」

 …あんたとそいつじゃ、話は違うだろうに。

 事実として大軍を二度壊滅に追いやったことから、ラグナロストに戦争を仕掛ける国はいなくなったのだから。

 

「ボクが酒に酔いやすいというか…毒に耐性がないのは、百年前の忌み子の呪いなんだよ」

 なんでも、己の持つ能力の全てを捨てて相手に強制的に弱点を作り出す呪いなのだという。

 …本当に、忌み子の力も行動原理も分からない。

 しかし、その忌み子は生きて祖国へ返された。

「ボクが言うのもなんだけどね。やっぱり争いの後には何も残らないよ」

 寂しそうな、遠くを見つめる目をしていた。

「実は、シノっていうのも本当の名前じゃないんだよ。本当はもっと長い名前があったはずなんだけど…いつの間にか忘れちゃって。やっと思い出せたのが、始めの二文字だけなんだ」

 私は両親に愛をもらったことがない。だから愛されて育てられたシノを羨ましく思う気持ちもある。

 でも愛をもって目の前で死に別れる悲しみは、一体どれだけのものなのか。計り知ることはできない。

「私は好きよ、シノって名前」

 だから今この瞬間の心の揺らぎを、感じる取るだけだ。

「…ありがとう」

 ふっと笑う姿はどこか寂しく、とても綺麗だった。


「あんたの周りには変な奴しかいないわね」

「その筆頭はキミだけどね」

 ベルもヒグレも実力は未知数であるが、人間の脅威足りえることは間違いない。

「…あんたが城に同居を許す条件って、何なの?」

 大方見当はついている。でも反応を窺うことにした。

 するとシノは悪そうな笑みを浮かべて。

「バレちゃったか」

 ずい、と金色の満月が間近に迫った。


「ボクを殺せる実力がある者。あるいはそこに至る可能性が高い者だよ」

 

 前者はまずいない。全員ギリギリで後者だ。

 …わざわざ殺害される因子を抱え込む理由は一つしかない。


「名も知らない誰かよりも、いっぱいお話しして、ボクの意思を継いでくれる友達に殺されたいんだよ」

 

 魔王は殺されるまで死ねない。寿命などないようなものだ。

 …勇者とよく似た呪いである。

「どうして呪いなんかって思うんだけどね。でも…どちらかが欠けた世界って、どうなると思う?」

 その答えはこれまでの歴史を見ればおのずと見えてくるもので、とても単純だった。


 …一方的な殺戮による、世界の崩壊である。

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