25.告白
ミコトの幼い頃の話を聞いた。
でも彼女は暗い顔一つせず、どこか懐かしむような目をしていた。
「あのときの化け物は、あんたなんでしょ?」
否を許さぬ、確信した目をしていた。
やっぱりこの子は鋭いところがある。
「うん、そうだよ。よく分かったね?」
はぁ、とミコトは溜め息をついて。
「あんたが迎えに来て…この暗さで確信したのよ」
ミコトが見上げたのは、木の葉の向こうの日が沈んだ空。
そうだ、あのときもこんな暗い森だった。
「このあいだ私の姿になったとき、引っかかるものがあったのよ。でも…まさか魔王だったなんて」
とんでもないやつととんでもないことを約束してしまったわ、とミコトは笑った。
「あの子供が勇者になるなんて、思ってもみなかったよ」
二人で木の下に腰かけて、空を見上げた。
あのときはただ、素質のある子としか分からなかった。走るために魔力を消費したのか、光の魔力を感じられなかったからである。それに泥だらけで髪の色もくすんでいて、とても勇者の子とは思えなかった。
「本当は、家の者は弟の方を勇者にするつもりだったのよ」
でも実際は違った。
「同じ結果を残しても、あの子の方が評価されたわ。もっとも、女である私を認めたくなかったからでしょうね」
…はたしてそれは本当だろうか。
もしボクの予想が正しければミコトは…。
「だからあの子の倍以上の鍛錬を積んだの。家の者に従うのは嫌だったけど、仕方なかったわ」
そしてあっという間に弟を抜き、迷いの森に一人で出入りするようになったらしい。
…放浪癖というか、家にあまりいたくないという気持ちのあらわれだろう。
「この森に来れば、また会えるかもって思ったのよ」
するとミコトは少し口をとがらせて。
「でもあんた、十年越しの再会で私のこと忘れてたでしょう?勇者って認識すらなかったし」
「そこはお互い様だよ。キミだってボクのこと分かってなかったし」
光の魔力から勇者の血を引いていることはわかったが…まさか称号まで得た本物の勇者だったとは。
「あんたのために、私は勇者になったのよ」
もう一度会う、という約束を果たした表情は満ち足りたものを示していた。
たった一つの約束のために人生の全てを懸けた姿は、強く気高いものだった。
「おかしな話ね。また同じ場所で出会うなんて。しかも似たようなシチュエーションで」
「そのあとボクは殺されそうになったけどね…」
けらけらと笑うミコト。実に嬉しそうである。
「そして今は同居生活。十年前の私が聞いたらきっと驚くわ」
一息ついてから、真面目な顔をして。
「ねぇ、聞かせてくれないかしら?あんたが魔王になった理由」
その答えを、彼女はすでに知っていた。しかしボク自身にはっきりと問いかけてきた。
「直接教えてほしいのよ。あんたが何を思ったのか」
三百年前から語り継がれ、人間と魔族の双方がよく知っているお伽話。
「…ボクは魔王になりたくて魔王になったわけじゃないんだよ」
人間と魔族の戦争を終わらせたいとか、そんな崇高な理想を持っていたわけではない。
「魔王を殺した者が魔王になるなんて、知らなかったからね」
だから魔王が自殺を許されないことも。
竜の魔力は後天的のもので、環境と本人の望みを受けて変化する。
そんな中、ボクが闇の魔力を持つ理由はただ一つ。
「聞かせてあげるよ。夜天の魔王が生まれるまでの…血みどろの復讐劇」
それは、憎しみに狂った小さな竜のお話だった。




