24.ひみつ
秋の足音がすぐそこまで迫ってきている。
木の葉が落ちる中、一人森で刀を振る。
ただ無心に素振りを続けているうちに、日が暮れかけていた。
でも…まだ帰る気にはなれなかった。
魔王城の地下の大図書館で見つけた一冊の本。
それは歴代の魔王たちの手記から作られ、勇者の姿を記したものであった。
まずその能力は大きく分けて二つ。
魔を斬る力と人を率いる力。特に私は前者を強く引き継いでいる。
次に武具。本来、勇者は盾も持っていたらしい。
人々の勇者に対する信仰心によってより強くなる伝説の盾。しかしそれはある事情で使用不可能になってしまったと。
そして、力の継承方法。
それは完全な血統であった。
立ち向かう勇者のことごとくを屠り、支配領域を大きく広げた二代目魔王。さらに勇者の血を引く者を女子供問わず殺していったらしい。
しかし最後の一人だけはどうしても殺せなかった。
どれだけ血を流しても、土色の顔で生きていた。
どれだけ飢えていても、骨と皮で生きていた。
どんな豪炎に包まれようとも、焼き爛れしゃがれた声で泣いていた。
一度首を刎ねたが、生き返った。姿形は変わらなかったが、記憶は抜け落ちていたという。
一度頭蓋を砕いたが、生き返った。しかしもう人の言葉を話すことはなかったという。
一度全身をモンスターに食わせたが、生き返った。散乱した肉片の一片から再生したという。
最も恐ろしいのは…そのとき再生されたのが生殖器だけだったことである。
何があっても血を絶やさない。それが勇者の呪いであった。
その八十年後、勇者は三代目魔王によって解放されたという。
しかし…肉塊と化したその者と子をなした者がいる。
そしてその血が自身の身に流れていると知ったとき、嫌悪感で吐いてしまった。
逆に、戦わず子作りばかりする勇者もいたという。
最初こそ強い力の子ばかり生まれ、スサガミ家は大きな権力を持ったが…。それを妬む他家との争いになり、子供のほとんどは幼くして命を落とした。
大昔から一度も血が絶えなかった理由が分かった。
なんて酷い話だ。なんで女神はこんなものを与えたのか。
最後に…百年に一度生まれる、魔王からは忌み子と呼ばれる者たち。
通常の勇者より強力で、人間社会に何度も革命をもたらしたらしい。
そして…私がちょうど百年目の忌み子である。
「夕飯の時間になっても帰らないなんて、珍しいね」
ふわ、と夕焼け空から降りてきたシノが言った。
「…どうかしたの?」
こいつ、見かけ以上に勘が鋭い。
…隠し事もできそうにないな。
「私がここにいる理由が、分からなくなったのよ」
魔王を倒す。それが使命のはずなのに。
…私の願いでもあるはずなのに。
勇者の使命に従うことが、怖くなった。
家の者が隠してきた歴史は、こんなにもおぞましかった。
あの本がでたらめであるかもしれない。でもそれを否定する材料もない。
「じゃあ、キミはどうして勇者になったの?」
男尊女卑である家の中で、私が勇者の称号を得るまで昇りつめた理由はただ一つ。
「あんたのためだって言ったら、どうする?」
それは遠い、幼いころの約束から始まったのだ。




