21.育成
夏も盛り。日の光が痛いくらいで、虫たちが声のばかりに恋を叫ぶ季節。
今日ばかりは城の中の空調を行っている。冷却魔法と風魔法を刻印したベルの魔道具をあちこちに取り付けて、城中に冷風を送るのだ。
「いいわね、これ」
そよそよと冷風を受け、気持ちよさそうなミコト。
「妾の自信作ですから。これからはアカツキの方にも売り込んでいく予定です」
魔法技術に関してはラグナロストの方が発展している。
逆に、商売や建築に関してはアカツキの方が発展している。
最近では人間と魔族が共同で学ぶ学校の建設も検討している。
「お茶を淹れました。アイスティーっす」
ヒグレは近頃、紅茶を淹れられるようになった。
根は真面目な、とてもいい子である。
「ありがとう、ヒグレ」
からんと氷が鳴るグラスを傾け、喉を潤す。
「あの、マスター。一つお願いがあるんすけど」
改まった表情のヒグレがやや申し訳なさそうに言った。
「…魔力を分けていただけませんか?」
吸血鬼として、他人の魔力も奪わなければならないのだという。
「普通の食事だけではどうにも足りなくって…ちょっとだけ吸わせてもらえれば、大丈夫だと思うんすけど」
しかし吸血には強い依存性がある。どうしたものか。
「その…マスターの魔力がすごくおいしそうなんで、ちょっと吸わせてほしいというか…」
「え?ボク、おいしそうなの?」
「はい。ものすごく」
意外である。ボクの魔力は耐性がない人間なら浴びるだけで失神するような強烈なものなのに。
「魔力に味なんてあるのね。私はどう?」
「ミコト様は…刺激が強そうっすね。オレには合ってないかもしれません」
魔力を奪うにしても相手の魔力と自身の身体の相性がよければならないのだという。
「残念ながら妾はお力になれません。命に関わるので」
ベルは悪魔。生命維持は肉体よりも魔力によるところが大きく、魔力が枯渇すればそのまま消滅する可能性すらある。
となると、やっぱりボクがあげた方がいいよね。ここに連れてきた責任もあるし。
「じゃあ水を持ってきてくれる?」
水を媒体にして身体の外へ取り出し、それをヒグレに飲んでもらうという作戦だ。
…魔力効果の調整を頑張ればいけるはずだ。
ヒグレが持ってきた水に指先を入れ、集中する。
身体の中にある魔力回路。それをより外へ伸ばすイメージ。
「…権限縮小。一時的魔力回路拡張」
透明な水に影が溶け、真っ黒に染め上がった。
「大丈夫なのかしら?私は禍々しさしか感じないのだけれど」
「たぶん普通のひとが飲んだら発狂するね」
劇物そのものである。
しかしヒグレはきらきらとした目をしていた。
「…いただきます」
一口、ゆっくりと喉に流し…一気に飲み干した。
さて、どうなるか。見物である。
「やっぱりすごくおいしいっすよ!めっちゃ甘いというか、とろっとしてるっていうか…ごちそうさまでした!」
恍惚とした表情で尻尾を振るヒグレ。
…ボクの魔力を受け入れられる器だったとは、驚きだ。
「そっか。なら良かった」
人間から奪い返した甲斐があったというものだ。




