19.潜在
半竜にヒグレと名付け、魔王城に引き込むこどに成功した。
長年閉じ込められていたことから、知識不足な部分が目立つ。だから大図書館への入室許可も出した。
そう、魔族側の大図書館は魔王城の地下にあるのだ。
巨大なその書庫に入れるのは、魔王に許しを得た者だけである。
「おはようございます。マスター」
この一週間打ち解けてきたヒグレ。
その姿は少女ではなく、竜のものである。
青い鱗と長く垂れた萌黄色のたてがみ。体つきはまだ細いが、これから太らせていく予定だ。
「おはよう、どう?生活には慣れた?」
「いえ、まだ全然…こんなに自由にさせてもらえるのも初めてなので、どうしたらいいのか…」
変身魔法を一日中やり続けていたときよりは身体が軽くなったと話すヒグレ。
「あんなにおいしいご飯も初めてで、ちょっとお腹を壊しそうです」
おいしいと言ってもらえて、すごく嬉しかった。
いっぱい食べてもらわないと。
「そうだ、ヒグレは竜としての魔力はもってるの?」
竜と吸血鬼の魔力の目覚め方は全く違う。
このあいだの男の発言や感知能力から、吸血鬼の力を持っているのは確かだが。
「はい。でもちょっと特殊でして…糸、なんです」
竜の魔力は環境によって異なる性質を発現させる。
ヒグレは幼少期に人間に捕まったらしい。その閉ざされた環境の中で外とつながることへの憧れや欲求の現れだろう。
「役に立つのか分からないんです」
す、と指先から細い糸が垂れた。
「思ったように動かせはするんですけど、ただそれだけで…使うのも久しぶりです」
なるほど、やっぱり。
しかしこれは使いようによってはかなり反則的なものになる。
「吸血鬼の魔力ってどんなものなの?」
「魔力を操る魔力、といった感じです。自分もよく分からないので…」
魔力の二種類持ちとは恐ろしいくらいのポテンシャルだ。
いや待てよ、ひょっとしたら…。
吸血鬼が奪うのは、血というより魔力である。
魔力を奪っている間、相手に快楽を与え逃げられないようにする性質をもっているのだという。しかも麻薬のような強い依存性があるらしい。
それもまた人間に長い間囚われていた理由の一つだ。
「うーん、そんなにかしこまった言葉遣いじゃなくてもいいんだよ?」
「すみません。あんまり話したこと自体なくて…ベル様も敬語ですし…」
「あれは好きでやってるだけだからね。まぁ、気楽にね」
善処します、と笑うヒグレ。
「えっと、マスターは魔王なんですよね?」
「うん。正真正銘のね」
ボクってそんなに威厳がないのだろうか。
「ミコト様は…勇者なのですか?」
少し声を小さくして問うてきた。
確かに信じられないだろうなぁ。
「うん。今代の勇者はあの子なんだよ」
黒髪が多いアカツキの中で白髪の勇者一族。
目立つことこの上ないと思う。
「いえ、その…男の勇者の話しか聞いたことがなかったので」
「ボクが知る中でも女の子はミコトだけだからね。本当にすごいよあの子」
出会い頭に斬りかかってきたのもあの子だけだ。
これまでの勇者はだいたい陣の後方にいたし。最前線、しかも単騎で戦うなんて話は聞いたことがない。
「ボクに対しては狂暴だけど、それ以外には比較的良心のある子だから。仲良くしてあげてね」
スバルとミコトは似ている。いや、ミコトがスバルに似たのだろう。
頑張ります、とヒグレは小さく笑った。




