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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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1.遭遇

竜視点です。

 やわらかな木漏れ日が心地よい春。

 新緑の香りが胸に満ちていくようで、風は花びらを運んでいる。

 木の葉のさざめきと、遠くに聞こえる鳥の囀り。


  うん、こういうのすごく好き。

  夕食用に採っておいた木の実たちを布でくるんで、ひと休み。

  青空を見上げて、大きく体を伸ばす。尾の先まで脱力し、地面に大の字で寝転がった。

  悠々自適な生活。なんて素晴らしいんだろう。

  このまま昼寝しちゃおうかな。

  いや、そろそろ家…城の方に戻らないとな。

 ゆっくり起き上がると、遠くから足音がした。

 音の間隔からして四足獣。しかもかなり大きい。

 猛スピードでこちらへ向かってきている。

 いや、そんなわけないか。


 だってボク、竜だし。


 となれば、何かを追ってきているのだろうか。

 最近、人里にモンスターが降りてくるのが問題になりつつあるし、冒険者が討伐に来ているのかもしれない。

 しかし、ここは城を囲む迷いの森。普通の人間なら外に出られずに森を彷徨うことになるはずだ。だからこうして時々見回りもかねて来ているわけだし。

 迷い込んだ人間は街まで案内するようにしているけど…。

 見殺しになんてできないし、助けないと。


 木々を薙ぎ払って現れたのはフェンリル。

 巨大な狼のモンスターで、人や家畜を丸呑みにできる。

 確か、冒険者ギルドが討伐依頼を出していたものだ。

 魔法師が大部隊を編成して挑むような上位種である。人間の近接攻撃では歯が立たないのだ。

 が、ここで重要なのは。

 先に飛び出してきたのがフェンリルであることだ。

 つまり。

 フェンリルを追う者がいるということだ。


「くたばりなさい!」

 どす、と鈍く肉が斬れる音がした。

 瞬く間にフェンリルの太い首が宙を舞い、鮮血が雨となる。

 地響きを鳴らしながら、血に海に伏す胴体。

 地面に転がった頭を踏み抜き、頭蓋を割って着地する追跡者。

 返り血で真っ赤に染まったのは、少女であった。

 身の丈に合わない大太刀も、異国の服も、腰まで垂れた髪も全て血の赤。

 かろうじて瞳の色は銀色でぎらぎらとした狂気が露わになっていた。 

 端的に言って、すごく危ない子だった。

 フェンリルの体毛は硬く、普通人間の子供が一撃で首を刎ねるなんて不可能なはずなのに。

 だとしたら、人型モンスター?

 いや、それはない。全身から放たれているこの強烈な魔力は…まさか。


「ねぇ、私と殺し合ってくれないかしら?」


 少女は鈴のような美しい声で、満面の笑みでそう言った。

 その瞳にあるのは、無垢で澄みきった殺意。

 こうしてボクの穏やかな生活は終わってしまったのだ。

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