16.げきど
やっと本命の場所に着いたかと思えば。
シノが怒っていた。
普段とは全く違う、冷たくて重いプレッシャー。
魔王としての力の片鱗がかすかに見えた瞬間であった。
「ならこの半竜はボクが買おう」
静寂に響く凛とした声。舞台の真ん中でスポットライトにあたるその姿は恐ろしく綺麗だった。
「で、では金額の方を…」
商魂たくましく金をせびる男。
するとシノは面倒くさそうに溜め息をついて。
「じゃあ、これで足りるか?」
袖からばらまかれたのは大量の金貨。とても袖に入っていたとは思えない量の財宝である。
百枚、いやもっとずっと多い。
金貨がきらきらと輝く雨のように降り注いだ。
おお!と突然の大金に沸く会場。
「なかなかやってくれたな…」
スバル様も苦笑いである。
ちなみに私には何が起こっているのかよく分からない。
檻の破壊もこの金貨の放出も、闇の魔力…影を操る魔法によるものなのだろうか。
観客席を跳び越え、シノの隣に降り立つ。
「派手にやったわね」
「スバルなら何とかするはずだ。問題ない」
魔王としての意識が強くなっているのか、声音や言葉遣いも変わっている気がした。
「問題はこっちだ」
目隠しも枷も外したが…半竜は動かなかった。
夕日色の瞳は虚ろで、意志の光が感じられなかった。
人間に飼われたことによって心が壊れてしまったのだろうか。さっきの男の口ぶりから、壊れるだけの理由はある。
だとしたら…勇者として不甲斐ない。
一見明るくなった世界の裏でこんなことが起こっていたなんて。吐き気がしそうだ。
でも…これを見つけるために私たちはここに来たのだ。
「皆殺しにしていいかしら?」
「待てミコトちゃん。それでは意味がない」
ハクジツを抜こうとする私を制したスバル様。
「でも、もうあの子の心は…」
「確かに壊れている。が、見ておくといいい…魔王の力を」
その目には確かな信頼が見て取れた。
「仕方ない…これを使うか」
瞳が金色を取り戻し、瞳孔が血の色に輝いた。
それは魔王に引き継がれる魔眼の力。身体を操ったり、恐怖心を植え付けたり…どこまで可能なのかは魔王しか知らないという。
「キミは、どうしたい?」
さっきまでとは打って変わって、穏やかでやわらかな声音。
これはおそらく真実の魔眼。
本能を、心の奥底にある声を引きずり出す力。
これにより、半竜の口から発せられたのは。
「ここから、逃げたい…!」
泣きそうな声での嘆願だった。
強い願望が心を、目に光を呼び起こした。
するとシノはにっこりと笑って。
「じゃあ、ボクに一回攫われてくれないかな?」
ひょい、と戸惑う半竜をお姫様抱っこした。
二人とも姿は少女のため何とも異様な光景だ。
「スバル、やれるな?」
「ああ。余を誰と心得る?」
スバル様は不敵に笑っていた。




