13. 服屋
人間の国に来るのは久ぶりだった。
この百年の平和のおかげで文化がめざましい発展をしている。各地の貿易路も整って、人や物資が円滑に回るようになったらしい。
子供のお小遣いで気軽に食べ物が手に入る。良い時代になった。
やはり人間の都というだけあって建物に統一感がある。異国の情緒というか、目に入るもの全てが新鮮だ。
…で、どういうわけかボクは女の子の服を着ることになった。
初めて入った服屋は女性ばかりで、言いようのない居心地の悪さを感じた。
人間の女性の扱いって難しいんだもん。
その元凶であるミコトは実に楽しそうである。
「白もいいけど、青の方が似合うわね」
着物というか浴衣というのか分からない服を何着も見繕うミコト。店の人と盛り上がっているあたり、意外と女の子らしいおしゃれとかが好きなのかもしれない。
ボクは分からないし適当に生地でも見ていようかな。
赤、青、白など目が回るような色彩の海。蝶から花、鳥などの刺繍もされており華やかなものが多い。
値段は…見ないでおこう。なんか後悔しそう。
すると優しそうな店の人がこちらにやってきて。
「それ、アラクネの方に作ってもらったものなんですよ?」
アラクネといえば糸を操ることに特化しており、下半身は蜘蛛、上半身は人間という魔族。
種族の特性を仕事にできるなんてすごい。
平和だからこそできる発展である。
「すごいですよね。こんなに綺麗な織を作るなんて」
その表情には尊敬の念が見て取れて、とても嬉しかった。
「…この布は、誰が?」
一つだけ、異様な物を見つけた。
恐ろしいくらい綺麗な一旦。それも、この世のものとは思えないほどの。
「オリガミと呼ばれる方からのもので…ごめんなさい、それ以上はわたしも教えてもらえなくて…」
申し訳なさそうに謝る店の人。
なるほど、そういうことか。
「…ありがとう」
そこでドタバタと足音がして。
「よし、じゃあまずはこれよ!」
意気揚々とミコトがやってきた。
「いや、だからボク服の着方が分からないから…」
「大丈夫よ。私が着付けするわ」
なんだか今日はミコトが妙に熱心だ。
店の人はその様子を微笑ましそうに見ていた。
…ボクのこと女の子だって思っているんだろうなぁ。
「着るなら…ミコトと同じのがいいな」
桜色の上着に紺色の袴。ところどころに花の模様がちりばめられており、可愛らしい。
何より、浴衣よりずっと動きやすそうである。
服をろくに着たことがないボクが浴衣なんて着れるはずがない。
夜には動き回る予定だし、それに適した服装がいいのだ。
「それを早く言いなさいよ馬鹿ぁぁぁ!」
何故かすごく怒られた。何がいけなかったのか。
「…おそろいって、ダメだった?」
おそろい、と聞いたミコトはぽっと頬を朱に染めた。
「シノとおそろい…同じ服…」
どことなくそわそわと嬉しそうな笑み。
「なら、もう一度仕切り直しよ!」
…やっぱり女の子って分からない。
その後、更衣室で二人きりになり。
「じゃあ、ワンピースを消せばいいんだね?」
魔法とはいわば事象の書き換え。それを発動するのに必要なのは、魔力と想像力。
人間は親から魔力を受け継ぐ。が、竜は生まれたあと環境や個人の性格などが作用して、その者に合った力がゆっくりと覚醒する。
そして今からやるのは変身魔法のイメージの上書き。
「服を着ていない人間って見たことないけど…こんな感じ?」
ワンピースが黒い光の粒子になって弾け、消えた。
白く露わになった肢体。文字通り一糸まとわぬ姿だ。
「晒くらい巻きなさいよ…」
何故かわなわなと震えるミコト。
「サラシって何?」
すると大きく頭を抱えてしまった。
種族が違うと色々と違うんだなぁ…。




