12.へんしん
じりじりと照り付ける日差し。賑やかな人通り。
道をゆくのは全て人間で、汗をぬぐう姿も見える。
ここはアカツキ王国。その王都、アサギリである。
「にしても、今日は暑いね…」
人波にもみくちゃになりながらぼやく少女。
白い肌に長く垂れた黒髪のツインテール。大きな瞳も黒をたたえ、小さな唇が可愛らしい印象だ。
「昼間から来なくてもよかったんじゃないかな?」
黒のワンピースに胸の膨らみはなく、身長も私と同じ。
「そもそもボクがこんな格好になる必要もなかったんじゃ…」
そう、この少女はシノである。ついでに髪に結ったリボンはヨイヤミである。
アカツキに行くとか言うから、私を見本にして変身魔法を使ってもらったのである。
変身魔法は、一部の上位魔族が取得できる魔法。
体の形を魔力で捻じ曲げるため体に負担はかかるし、魔力の消費は激しいし。
シノもあまり好きではないらしいが…。
それでも姿を変えるのは、ひとえに正体を隠すため。
「夜にこっそり忍び込むつもりだったんだけど…」
シノの力が最大限に引き出されるのは夜なのだが…。
「スバル様が許しても、私が許さないわ」
そのあたりのケジメはつけてもらいたいのだ。
そして、もう一つ。
「やっぱりあんた女の子でしょう?全然違和感ないもの」
「…こんなところだから男としての主張もできないんだよ」
いわく、見本がないとうまく変身できないのだと。
ツインテールは私の意向。あまりに顔が私そっくりだし、可愛くしたかったのだ。
…もう一人の私というのはどこか懐かしい気がした。
「せっかくだし何か買いましょ。私がおごるわ」
「じゃあ…あのかき氷、食べてみたい」
中央通りから少し外れた大きな公園。神木とも呼ばれる大樹の下でかき氷を食べた。
「氷を削っただけなのにふわふわになるってすごいね」
新雪のようなかき氷を楽しそうに眺めるシノ。
「ラグナロストでは売られていないそうね?」
「今のところはね。そろそろ売れるようになると思うんだけど」
苺味のシロップと氷。一気に食べると頭痛がはしるらしい。
「じゃあ次は服屋に行きましょ。あんたに似合う服を見繕ってあげるわ」
「え?いや、この姿は今日だけだし、そんなにミコトにお金を使わせるのも…」
「私は数々の賞金首を屠ってきた一流冒険者よ?お金なら腐るほどあるわ」
「お金って腐るものでもないと思うんだけどなぁ…」
こんなときぐらいしか使えないのだから思いっきり使ってしまおう。
…誰かのためにお金を使うのも初めてかもしれない。
私には双子の弟がいるのだが…社交的だったあの子は家の者にも気に入られ、いつの間にか疎遠になってしまった。
まぁ、あの子のことだしきっと元気にやっているだろう。
「ねぇミコト…やっぱり着なくちゃダメ?」
服屋の前で立ち止まるシノ。
「これは潜入調査のため。この国らしくしてほしいのよ」
「その割にはずいぶん楽しそうだけど…」
別にシノを可愛くおめかししたいとか、そんな邪念はないのだが。
「…ボク、服の着方が分からないんだけど」
そうだった。こいつは裸族だった。
「裸マント野郎め…」
「なんか今すごい理不尽な罵倒されなかった?」
仕方ない。こうなったらとことん教えてやろう。
シノを私の嫁にするという野望のためにも。




