11.情報
夏の虫の声。じめじめとした夜。
星が輝く空を見上げていると、小さなノックが聞こえた。
…ミコトではなさそうだ。
「失礼します。少し情報が入ったのでご報告に参りました」
もう夜も遅くミコトは眠っている。そして今、ボクがいるのは寝室ではなく執務室だ。
何でここにいるのかというと、もちろんベルの報告を聞くためである。
「例の奴隷売買の件についてです」
ベルに調べてもらっている案件。スバルが持ってきた問題の一つである。
アカツキとラグナロストとの友好な関係を築くため、魔族を奴隷などにすることは禁じられている。
しかし農作業などでモンスターを使うことは多々ある。
そこでモンスターと魔族の区別がつかない人間が魔族を家畜のように扱い、起訴されることもしばしば。
魔王には魔族を支配する力があるが、モンスターは対象外である。
魔族とモンスターの区別も魔族には簡単であるが人間には難しいのだ。
今後の大きな課題である。
だが今回の件は…はっきりと線引きができる。
「竜の密売が行われていました」
竜は上位種族であり対話も可能な魔族の象徴。
それを秘密裏に売買していたとなると、国家規模の問題である。
…正直許せない。
スバルも頑張ってくれているが、人間一人では限界があるのだ。
「カゲロウ家。貴族の中でもかなり地位が高いようで、勇者のスサガミ家ともつながりがあるようです」
ミコトは…知らないだろうな。
貴族層の腐敗。これはどうにもならない。
スバルもベルもまだ決定的な証拠は掴めていないという。ならもう少し調べてみるべきだろう。
「…泳がせておけ」
放っておけばいつか尻尾を出すはずだ。
「よろしいのですか?ひょっとしたら…側付きになれる可能性もありますが」
「キミがそう言うのは珍しいな…能力は?」
「今ある情報で分かることは…竜と吸血鬼のハーフである、とのことです」
これはまた異様な混血だ。
しかしもしかしたら。
「…ならこちらも動くしかないな」
引き出しから煙管を取り出し、雁首に煙草を詰める。
スバルにもらったもので、オーダーメイドらしい。
マッチをすって火をつけ、ゆっくりと吸う。
ふぅ、と息を吐けば、白い煙の匂いが部屋に広がった。
「また煙草ですか。お体に悪いですよ?」
「こんなもので寿命が縮んでくれたら万々歳なのだがな。たまにくらいいいだろう?」
口に満たすくらいに軽く吸い、空を見上げた。
「…死ねない呪いですか」
魔王の力と共に刻まれる呪い。
これにより殺されるまで死ねないのだ。
自殺も許されないのは酷なものである。
「魔王としての話し方だと、まるで別人のようですね」
「どちらも同じに決まっているだろう。裏表などない」
そう、ボクは魔王なのだから。




