106.ふういん
カイまで禁忌権限を持っていたとは…ヒグレの話からして、何らからのハーフであることは確かだった。そこで矛盾を得ていたと考えれば自然なことだ。
…少し悔しく思ったのは、私だけの秘密だ。
「ひょっとして、かつてグラケーノ殿を封印した勇者も、停止を持っていたりしたのかい?」
スバル様の問いに、言葉を失った。
でも言われてみればそうだ。外界に干渉してはいけない、という命令ができたのなら、全て辻褄が合う。
「おそらく、そうでしょう。封印に使われていた術式と、グラケーノさんの記憶に干渉している力は酷似してしますから」
五百年前の勇者と同じ力を持った人間が、敵になった。
勇者と魔王の両方の力を手に入れ、暴虐の限りを尽くしたかの王と同じ力を。
「禁忌権限は恒久的なものなのかい?所有者が死亡によって魔力の供給が絶たれれば、封印の維持は困難になると思うのだが…」
「その通りです。禁忌権限も魔力の一種ですから、永久のものではありません。ですが…魔法術式として形に残せば、その効果は無期限に至ります」
魔力も禁忌権限も、この世を歪める権限だ。なら、その特性…世界式への干渉法則を解析すれば。人々から集めた魔力を変換することも不可能ではないだろう。
「魔力変換の術式も含まれていたのか…あれは複雑過ぎて、多くの学者たちがさじを投げたというのも納得できるな」
なるほど。ということは…。
「もう一度封印魔法を使い、シノの魔王の呪いを解く。そうでしょう?」
色々と規格外で忘れかけていたが。グラケーノもはるか昔はシノと同じ呪いを背負っていたのだ。
「ええ、そうです。が、あの術式も壊れている部分があり、完全に復元することはできなかったのです」
聞けば、何度も再現しようと実験を繰り返していたらしい。
「無機物は形が保たれるものの、性質が変わってしまったり。生物は死亡したり、発狂してばかりでした」
それを何十年と続けてきたと。
「ですが…ようやく、同じ禁忌権限を持つ人間が現れました。カイを分析することができれば、きっと術式は完成します」
ベルの声に力がこもるのが分かった。
「何としても、絶対に完成させます。陛下を、安らかに天寿で殺すためにも」
それが、彼女の決意であった。
「ありがとう、ベル。ボクも…きっと、天寿を全うしてみせるよ」
生への執着に気づけていなかったら、解呪と同時に自殺した可能性だってあったくらいなのに。
…本当に気づかせてくれてありがとう、ベル。
「みんなと同じ時間なら、生きていてもいいのかなって思えるから」
椅子から立ち上がったシノが、ベルの頭をよしよしと撫でた。
「ひとりで、よく頑張ったね。これからは、みんな一緒だよ。…ボクは、何をすればいいかな?」
しゃがみこんで、目線を合わせたシノがそう問いかけた。
すると、ベルはおもむろにシノに抱きついて。
「もう、殺されたいだなんて言わないでください。妾はそれだけで、それだけで十分ですから…」
ぽろぽろと、涙を溢れさせながら言った。
その言葉は、一体どれだけ彼女を苦しめてきたのだろう。
「…うん、分かった。ごめんね、もう二度と言わないよ」
痛みの混じる表情で、シノはそう約束した。




