105.欲求
グラケーノが想像以上に異端な存在であることが分かった。
正直ボクも信じられない。能力は高いと思っていたが、まさかこれほどとは。
…使い方を知らないだけで、あそこまでポンコツになるのか。
「これらの禁忌権限は、特に本人の願いによって宿ったものです。ですが力の影響で、人格が歪むこともあります」
ボクが願ったのは、魔王を殺す力。それ以外何もいらないと叫ぶくらいに。そしていざ復讐が終わると、その殺害欲求は自分へと牙を剥いた。
ベルは知識欲から。ヒグレはぬくもりを求めて。グラケーノは、誰かを守れる存在になりたくて。
「一つ思ったんだが…ひょっとして、カイも禁忌権限を持っていたりするのかい?」
「えぇ、持っていますね。グラケーノさんの記憶の穴に、きっちり示されています」
あまり考えたくなかった可能性だった。
禁忌権限は、どれを取っても危険因子でしかないから。
「禁忌権限・停止。ある条件での事象を不可とする力…してはいけない、と命令すればそれを実現してしまうもののようです」
思い出してはいけない、とグラケーノは命令されたのだろう。
「演算式の強制停止、ですね。目を開けてはいけない、と命令すれば、目を開けるための脳の信号が筋肉に届かなくなるわけです」
しなさい、というよりも。してはいけない、と考えるべきか。
「こちらはヒグレと同じく、持続的な消耗が発生するようです。グラケーノさんほど持続性が高くないのが幸いですね…」
もしグラケーノが生物を石にした場合、元に戻すことは不可能だという。
メデューサも生物を石化させる能力を持つが。こちらは一時的に表面を石にするだけで、時間が経てば元に戻る。これは個体情報での復元が行われるからだと。
しかしグラケーノの場合、個体情報ごと上書きしてしまう。
生物の遺伝子を、石の原子配列へと。そして原子配列から遺伝子を復元するのは不可逆であると。
…本当にそうだろうか。
改竄では無理だとしても。ボクが神様だったら、それに対抗する力は持っておきたいと思う。
今ある五つの力の中で足りないものは…。
「リンネがグラケーノを手駒に加えなかったのはどうしてかしら?カイがいたのなら、できなくはない気がするのだけど…」
「グラケーノさんの思考回路は非常に不安定で、既存のどの生物のものとも合致しません。ですから、思考回路を上書きしての洗脳、支配系魔法をかけることができなかったのでしょう」
もっとも、魔法をかけずとも命令とあれば、グラケーノはそれに従っていたかもしれないが。
…今回の戦争、お互いに面倒なことになったな。




