104.せいれい
ヒグレの力には驚いたが…あの様子ならきっと楽しく使いこなせるだろう。
いや待てよ。感覚の共有ができるのならヒグレはいつでもシノにちょっかいを出すことができるわけで…。
これからはもっと用心深く見張っておこうかしら。
「グラケーノさんの禁忌権限は、改竄。これは特に、情報の上書きに特化した力です」
その力は、何度も見てきた。
地形を変えたり、ただの土をオリハルコンに変えたり。世界の法則を塗り替えてしまうような力。
「言ってしまえば、あらゆる魔法を術式無しで使えます。物質の原子から状態まで操作できるわけですから」
この世は原子と、そのエネルギーの移動で成り立っているという話は本のどこかで見たような気がする。
「え?いや、ワシそんなすごいことできぬよ?まず山の大精霊じゃから、扱えるのは地属性だけじゃし…」
「ヒグレと同じく、やり方を知らないだけです。原子配列や演算式が分かるようになれば、この星の酸素全てを毒ガスに変えることもできますよ」
信じられないほど大規模な話だ。それだけの力があったからこそ、魔王になれたのだろうが。
「そもそも精霊というのも、あるとも言えるし、無いとも言えます」
人間が増え過ぎれば大災害をもたらすとか、伝承はあるものの。現在の魔法技術でもその存在が証明できずにいる不思議なもの。
グラケーノがいるわけだし、てっきり存在しているのかと思っていたが。
「この世は演算式で成り立っています。となれば、その式の間を行き来するエネルギーも必要になりなす。それが現在、精霊と呼ばれるものなのです」
あぁ、だから自我がないのか。存在証明が不可能なわけだ。
「そんなエネルギーの塊を一時的にでも具現化させ、音声認証ができるように術式を与えた魔道士は、天才としか言いようがありません」
ひょっとしたら、その魔道士もベルと同じ眼を持っていたのかもしれない。
森羅万象、この世の全てを見透かすその瞳を。
「ちょっと気になるのだけど。演算式を動かすエネルギーはどこからやって来るのよ?」
「循環している、と言うのが一番良いでしょう。陛下の消去や矛盾によってエネルギー処理が正しく行われない場合もありますが…それを調整する演算式もあるようです」
となると、地属性とか関係なくなるわけで…。
「無尽蔵な魔力量で、自然属性魔法なら全て行使できるってことかい…?」
「はい、その通りです。術式さえ覚えてしまえば、人工魔法だって使えますよ」
ぽかーん、と開いた口が塞がらないグラケーノが印象的だった。
人工魔法といえば、洗脳魔法など、自然界に存在しなかったはずの特殊な魔法。そんなものまで扱えるようになってしまったら、手のつけようがなくなってしまう。
グラケーノは魔力を持っている、という認識でいたが。グラケーノがエネルギーを制御下におく、と考えた方がいいかもしれない。
確かに、あれだけの大規模な事象の改変を行っておいて、一切消耗した様子がないのは少し疑問に思っていたところだ。
「…これほど使いこなせていないって、逆にすごいねキミ」
「やめてくれ坊っちゃん、ワシ傷ついちゃう」
何かふたりでこそこそ言い合っている。
私が見る限りでは、そこそこ使いこなせていると思うのだが。
「…私も負けてられないわね」
追いついて、追い越さなければならない。
絶対に手に入れてみせる、と密かに胸に誓うのであった。




