101.消去
ボクやヒグレにも禁忌権限が宿っていると、ベルは言った。
驚きはしたけど、納得もできた。だって闇の魔力は…本当に、あってはいけない力だと感じていたから。
「竜族は自身の願いを魔力として発現させます。だから、陛下の闇の魔力もそのメカニズムによって生まれたものだと考えていました」
過去形、ということは事実は異なっていたわけだ。ボクも、一つ引っかかるものがあった。
「陛下は、何歳で魔力が覚醒しましたか?」
本来目覚めるべきは二十歳前後。でもボクは…。
「四歳くらい、かな」
あまりにも早すぎたのだ。
記憶は曖昧だが、この爪が枝の一本も斬れないほど小さかったのは覚えている。
「竜族は、魔力回路が二十歳にならなければ解放されないように設定されています。これは種族特性としての設定であり、本来破られることはありません」
長命で、他種族より力に恵まれている竜族。しかし幼体は非常に脆弱で、成竜になるまでには多くの時間がかかるのだ。
「魔力回路を無理やりこじ開ける形で禁忌権限を獲得したようです。だから、本来覚醒するはずだった魔力が現れなかった、ということでしょう」
本来覚醒するはずだった、かぁ…。
もしもあのまま、家族と里で暮らしていたら。ボクはどうなっていたんだろう。
…きっと、みんなと会うこともなかったんだろうな。
「陛下の禁忌権限は、消去。情報を消し去ることに特化した力です」
闇の魔力、改め消去。これに関しては、ボクも全てを知っているわけではなかった。
「演算は事象の演算式には干渉できません。しかし陛下の消去ならば、式はおろか式を動かすための情報まで消すことができます」
ベルは指を一本立ててみせて。
「先程お話したように、回復薬は個体情報の逆演算を利用しています。生きてさえいれば、個体情報は全て保存されているわけですから。ですが、陛下の消去の場合、その情報すら残しません」
火葬すれば灰が残り、土葬すれば骸は大地へと還る。しかし夜の顎に食われれば、この世には何も残らない。
全ての命は巡るという、この世の根底にある法則を破綻させてしまう。
何千、何万という命が、あるべき場所へ還れないまま…。
「妾は視ることを条件に、陛下は触れることを条件に発動することができます。さらに陛下は、演算補助のための媒体として影を操ることができます」
影で触れたものを消すことができる。初めて影で殺してしまったときは、食料の心配以上に恐怖を覚えたものだ。
「…消去演算を停止させて、媒体だけを動かすなんて。しかも影の中の虚空域を物置にしておくとは…。よく考えましたね、こんな使い方。本来の用途からは考えられませんよ」
苦笑するベル。でも、目の色はどこか嬉しそうでもあった。
この力は怖くて、嫌いに思うことも多かった。だから、害のない使い方を模索したのである。何度か自分の身を削りそうになったものだ。
「まぁ、けっこう頑張ったからね」
神様はこんな力を持っていたとして、恐ろしくはなかったのだろうか。




