98.てんじゅ
みんなで団結する、ということで話はまとまった。
子供じみた話で、陳腐な言葉かもしれないが…案外そういうものが、未来を少しずつ変えていくのではないだろうか。
信じていたい綺麗事を吐き続ければ、きっといつかは本物になってくれるはず。
勇者ミコトも、子供の約束から始まったのだから。
「こうして打ち明ける勇気を出せたのは、お嬢のおかげでもあります」
喉につっかえていたものを吐き出したからか、ベルも穏やかな笑みを見せていた。
「誰かのための隠し事。でも、苦しいのなら打ち明けた方がいい。そこで妾も、ようやく決心ができました」
吹っ切れた、とでもいうような表情であった。
「陛下を…戦って殺すことができないと知ったら、もっと取り乱してしまうと思っていたのですが」
シノを殺すことを目標として、夢として剣士としての道を歩いてきた。
夢を抱く者は信じられないほどの力を持つ。夢に懸ける情熱が、自身を突き動かしているからだ。
しかしそれと同時に、ひどく脆い存在でもある。夢を失ってしまうと、絶望しか感じ取れなくなるからだ。
夢に続かない、先の見えない道を歩む勇気を出せなくなってしまうから。寄り道の仕方も忘れてしまっているから。
シノが一番分かりやすい例だろう。
だからきっと、ベルも私を傷つけまいと黙っていてくれたのだろう。
「…考えてみると、私が強くなりたい理由って、シノと一緒にいたいってだけなのよ」
十年前からずっと。色々とあったはずなのに、よくよく思い返せば、そんな単純な願いが根底にあったのだ。
「ヒグレ、意外と私もあなたと同じだったみたいね」
他人に言われて気付かされるなんて、私もまだまだ未熟だな。
「ベル、あなたも同じでしょう?」
彼女が逃げ出さずにここにいる理由。
「シノの願いに対する、あなたの返事は?」
シノいわく、何十年も返答待ちだったらしい。その間ベルが何もしていなかったとは思えなかった。
「妾は…」
ベルはシノを見つめ、思いの丈をぶつけるように。
「魔王の呪いを解き、陛下を天寿でもって殺します」
魔王の宿命に、真っ向から反抗する姿勢であった。
世は、こういった者を勇者と呼ぶのではないのだろうか。逆境の中で苦しみながら、誰かのために世界に抗う姿を。
…肩書を持った自分が恥ずかしくなるくらい、かっこいいと思った。
「天寿で殺す…うん、すごくいい響きだと思う」
シノはそう言って笑った。
「ほんと、勇者みたいね。そんな大それたことを堂々と言うだなんて」
私ですら諦めていたのに。ベルはまだ諦めていなかったのだ。
「…こうして誰かに勇気をもたらすひとこそが勇者だと、妾は思います」
ぱっと花が開くような。冷たい冬を越えた蕾が広がるような笑顔だった。
「あなたのことだし、色々と策は考えているのでしょう?」
確証はないだろう。でも、根拠の一つくらいないとそんなこと言えないだろう。
「えぇ、もちろん。ですが…かなり分が悪い賭けです」
そんなことは重々承知である。
「ここまで言っておいて、無理でしたなんて言わせないわよ」
「分が悪いってだけで、ボクらが勝てる可能性はあるんだよね?」
不可能ではないはず。実際グラケーノだって…あれ?
「では、一から説明しましょうか」
ベルがやろうとしていることって、まさか。




