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魔王にレクイエムを  作者: 流月
105/198

98.てんじゅ

 みんなで団結する、ということで話はまとまった。

 子供じみた話で、陳腐な言葉かもしれないが…案外そういうものが、未来を少しずつ変えていくのではないだろうか。

 信じていたい綺麗事を吐き続ければ、きっといつかは本物になってくれるはず。

 勇者ミコトも、子供の約束から始まったのだから。


「こうして打ち明ける勇気を出せたのは、お嬢のおかげでもあります」

 喉につっかえていたものを吐き出したからか、ベルも穏やかな笑みを見せていた。

「誰かのための隠し事。でも、苦しいのなら打ち明けた方がいい。そこで妾も、ようやく決心ができました」

 吹っ切れた、とでもいうような表情であった。

「陛下を…戦って殺すことができないと知ったら、もっと取り乱してしまうと思っていたのですが」

 シノを殺すことを目標として、夢として剣士としての道を歩いてきた。

 夢を抱く者は信じられないほどの力を持つ。夢に懸ける情熱が、自身を突き動かしているからだ。

 しかしそれと同時に、ひどく脆い存在でもある。夢を失ってしまうと、絶望しか感じ取れなくなるからだ。

 夢に続かない、先の見えない道を歩む勇気を出せなくなってしまうから。寄り道の仕方も忘れてしまっているから。

 シノが一番分かりやすい例だろう。

 だからきっと、ベルも私を傷つけまいと黙っていてくれたのだろう。

「…考えてみると、私が強くなりたい理由って、シノと一緒にいたいってだけなのよ」

 十年前からずっと。色々とあったはずなのに、よくよく思い返せば、そんな単純な願いが根底にあったのだ。

「ヒグレ、意外と私もあなたと同じだったみたいね」

 他人に言われて気付かされるなんて、私もまだまだ未熟だな。

「ベル、あなたも同じでしょう?」

 彼女が逃げ出さずにここにいる理由。

「シノの願いに対する、あなたの返事は?」

 シノいわく、何十年も返答待ちだったらしい。その間ベルが何もしていなかったとは思えなかった。

「妾は…」

 ベルはシノを見つめ、思いの丈をぶつけるように。


「魔王の呪いを解き、陛下を天寿でもって殺します」


 魔王の宿命に、真っ向から反抗する姿勢であった。

 世は、こういった者を勇者と呼ぶのではないのだろうか。逆境の中で苦しみながら、誰かのために世界に抗う姿を。

 …肩書を持った自分が恥ずかしくなるくらい、かっこいいと思った。

「天寿で殺す…うん、すごくいい響きだと思う」

 シノはそう言って笑った。

「ほんと、勇者みたいね。そんな大それたことを堂々と言うだなんて」

 私ですら諦めていたのに。ベルはまだ諦めていなかったのだ。

「…こうして誰かに勇気をもたらすひとこそが勇者だと、妾は思います」

 ぱっと花が開くような。冷たい冬を越えた蕾が広がるような笑顔だった。

「あなたのことだし、色々と策は考えているのでしょう?」

 確証はないだろう。でも、根拠の一つくらいないとそんなこと言えないだろう。

「えぇ、もちろん。ですが…かなり分が悪い賭けです」

 そんなことは重々承知である。

「ここまで言っておいて、無理でしたなんて言わせないわよ」

「分が悪いってだけで、ボクらが勝てる可能性はあるんだよね?」

 不可能ではないはず。実際グラケーノだって…あれ?

「では、一から説明しましょうか」

 ベルがやろうとしていることって、まさか。

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