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魔王にレクイエムを  作者: 流月
101/198

94.したい

 おかしな関係。言われてみれば、確かにそうだ。

 仮定のどこに間違いがあるのだろうか。シノを殺すという目標が達成されていないのは、まだ私の実力が足りていないからではないのだろうか。

 …それともここ最近腹に居座り続けている、この違和感のせいなのだろうか。

 

「お嬢がもし本当に陛下を殺したいのであれば、手段は選ばなくていいはずです」

 手段を選ばない?どういうことだ?

 シノの防御力を貫通するための技は、色々と考えているが…。


「戦って殺せ、とは陛下は一言もおっしゃっていませんよね?」

 

 あ、と。

 拍子抜けするような、目から鱗とでもいうような。脱力と納得の感覚があった。

 誰にも負けないくらい、と言われた。

 だからシノよりも強くなって、剣でもって魔王としての命を終わらせる気でいた。

 だが殺すことだけを目的とするならば、手段はいくらでも存在する。


 かつて勇者一族の最後の生き残りが受けた、数々の惨たらしい終身刑。

 燃え盛る炎に、背中を突き飛ばしてしまえば。うねる赤色に、一歩踏み込ませてしまえば。そのままシノが無抵抗に焼き焦がされてしまえば。

 その命が、消えてしまうことがあれば。

 魔王を殺した者は誰になる?

 自らの命が消えるのを待ち続けたシノ自身?

 否。

 火を放ち、身を焼くほどの豪炎にした者?

 否。

 間違いなく、突き飛ばしたものが魔王になる。

 何故こんなことに気付けなかった?


「陛下は文字通り規格外の魔王です。しかし生物という枠組みに囚われている以上、時間さえかければ殺す方法はいくらでも存在します」

 時間をかけて、と考えれば。殺し方が脳に溢れ出した。

 炎じゃなくて、海でもいい。鎖で重りを縛り付けてしまえば、シノの死体が海面に浮かぶこともない。

 崖から突き落とされて、真っ逆さまに冷たい海に沈んで。水の暗闇が、全身を凍えさせて。

 海底で朽ち果てた亡骸は、供養されることなく喰い荒らされていく。

 考えもしなかった死に様に、身の奥底から寒気がした。

 シノだって生物だ。生きているのだ。

 食事だって、できなければ死ぬだろう。

 枷をはめて、檻の錠をしてしまえば。日の光も届かぬ部屋に、水も食料も与えず放置してしまえば。

 シノは何日後に死ぬ?

 痩せ細って、声も枯れ。飢餓感に狂いながらどれだけ生きているのだろう。

 見るのが辛くなって、水を与えようとするかもしれない。でも、シノはきっと受け取らない。

 だって、自分が死ぬためだから。

 会うのも辛くなって、遠い場所へ逃げ出してしまう。そうしたら、シノは誰に看取られることもなく死んでしまう。

 腐肉は虫を呼び、大地に還ることなくなくなっていく。


「お嬢は、本気で陛下を殺す気でいたのですか?」

 腹の中の違和感が、最悪の形で牙を剥いた。

 分からない問いがはっきりと突きつけられ、言葉がつっかえてうまく出てこない。

「…」

 シノの凄惨な死が脳裏に浮かんでは、どうしようもない怖気が首を締めるばかりであった。

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