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その3

「へえ……」

 ほどよい丘陵と小川。

 そして開けた平野。

 それらを見て天成は心が晴れやかになるのを感じた。

 普段、狭苦しい社屋の中にいるからだろう。

 また、外回りをしていても仕事に追われて周りを見る余裕がないからだろう。

 あらゆることから解放されて見る外の景色というのは、それだけで心を和ませてくれた。

「いいなあ……」

 そう思うのは、もしかしたら人生初めてだったかもしれない。

 その初めての体験に身も心も浸していく。

 だが、すぐに現実と向かい合う。

「こうしてるわけにもいかないよな」

 食料はもうない。

 この先生きていくなら、食い扶持を確保せねばならない。

「まあ、農夫だし」

 望んで得た才能ではないが、今の天成にはその能力がある。

 ならば、これでやれるだけやってみようと思った。

 上手くいけば食い物が手に入るのだから。

 そうと決まればと、早速能力を使っていく。



 ありがたい事に、持ってる能力についての説明はすぐに出てくる。

 持ってる能力がどういったものか疑問を持つと、その答えが頭の中に流れ込んでくる。

 それは言葉だったり映像だったりする。

 教材映像と言った方がわかりやすいだろうか。

 それが必要なものが必要なだけ得られる。

「これが能力の効果なのかな」

 詳しい説明がなされる前に飛び出してきたから、正確なところは分からない。

 だが、今は情報を得られるのがありがたい。

 それをもとにとにかく行動をおこしていく。



 とりあえず農夫らしく農地を作ってみる。

 土を耕して、畑を作っていく。

 その為の農具だが、必要最低限のものは手に入れる事が出来た。

 能力の効果なのか、農具などを出現させる事が出来るようだ。

 そうして手に入れた鍬で、土を掘り起こしていく。



 そうやって体を動かしてみて分かったが、驚くほど効率よく動く。

 これも能力のもたらす恩恵なのか、やったことがないはずなのに、農作業における体の動かし方が分かるのだ。

 おかげで思ったよりも簡単に畑を開墾していく事ができる。

 そんな事をしてると、

『農業のレベルがあがりました』

という声が頭に響いた。

 ゲームのようなレベルアップの仕方に少々驚く。

 だが、能力が上がるのは悪いものではない。

(農業に関わる事をしてれば経験値でも手に入るのかな?)

『その通りです。

 農業活動ならば、その全てで経験値を得る事が出来ます』

 すかさずやってきた説明音声になるほどと頷く。

(それなら、やってやってやりまくる!)

 学校や会社で得られなかった充実感をおぼえる。

 やった事がやっただけ実入りとなってやってくるのはありがたい事だ。



 そんな調子で半日を畑作りに費やした。

 その結果、高まった農夫のレベルは、更に新しい能力を天成に与えていった。

 畑に植える種、作物を育てるのに必要な知識。

 水を引くための水路作りのための知識と技術。

 天候を読む能力。

 農作物を狙う動物への対抗手段。

 農具などを作り出すための工作技術。

 農業におよそ必要と思えるあらゆるものが手に入った。



 こういったものが手に入って分かった事がある。

 まず、知識や技術といったものは、一度身につけたら忘れる事がない。

 必要ならいつでも情報を引き出す事が出来る。

 だが、道具などはそうではない。

 最初の一つは無償で提供してもらえるが、二つ目以降は自力で調達せねばならない。

 農具にしろ種にしろだ。

(まあ、それは当然だよな)

 むしろ、最初の一回だけでも物を提供してくれるのがありがたい。

 何もないところから始めた天成にとっては、元手があるかどうかは大きな違いとなる。



 また、種もかなり変わったものだった。

 最初に貰える種は、植えれば発芽して実がなるまで一日もかからない。

 かなり特殊な種のようで、これには驚いた。

 そして、そこからとれる種は、普通の植物と同じような成長をするようだった。

 これも最初の一つがもつサービスの一つなのかもしれなかった。

 おかげで天成は、食糧不足による飢え死にから解放される事が出来た。



 そんなこんなで畑を作って種を植え、作物を収穫して種も手に入れてまた作物を育てていく。

 そんな事を繰り返してるうちに、天成の農夫レベルはどんどん高くなっていった。

 そうなると今度は予想もしなかったような能力を手に入れるようになる。

「これは……」

 さすがにそれには天成も困惑した。



 レベルが上がる事で、関連する知識や技術、道具などが手に入る。

 それはこの世界で土を耕し続ける事で知った。

 そして、それが続くと、ある段階で次の道が示される。

 いわゆる上級職というものだろう。

 あるいは関連職というべきか。

 ゲーム的に表現するならばそういったものが天成に示されてきた。



『農夫のレベルが一定値に到達しました。

 新たな技能系統を手に入れました』

 説明音声がそういったのはいつだったか。

 その声と共に表示された技能系統というものをみて、天成は驚いたものだった。

「へえ、こんなのもあるのか」

 そこには、

『地主』

『農園警護』

『農具鍛冶』

というものが表示されていた。

 農夫らしいというべきだろうか。

 それらしいものが並んでいた。



 ありがたい事に、このうちどれか一つを選んだら他が選べなくなる、というわけではない。

 経験値を注ぎ込めばどれも成長させる事が出来る。

 ただ、まんべんなく成長させようとすると、全体の成長が落ちるのは確実。

 当面はどれか一つに絞っておいた方が無難ではあった。

「まあ、出来ることが増えるのは助かる」

 一人で出来る事の限界を感じていた天成は、新たな可能性に胸を躍らせた。



 とにかく色々不足していた。

 農地は拡大出来ても、一人では管理しきれない。

 田畑を荒らしにくる獣もいる。

 世界的な問題として、怪物の類いがやってくる事もあった。

 また、道具を新たに新調したいとも思ってもいた。

 そんな頃合いで新たな道が示されたのはありがたかった。



 そんなわけで、地主として人を使って農地を管理し。

 農園警護として戦闘力を手に入れ。

 農具鍛冶として道具を作り出せるようになっていった。

 地主になった途端に農作業用の人形(式神と言った方がしっくりくる)があらわれたのには驚いた。

 また、警護の能力を上げたら、武器防具などが出てきた。

 農具鍛冶だと、鍛冶場と工具が最低限もらえた。

「何でもありだな」

 本当に便利なものだとつくづく思った。



 そんなこんなで農場を広げ、能力をあげていく。

 転移してから三年もする頃には、消費しきれないほどの収穫を得られるようになっていた。

 何せ一人しかいないから、作物が余る余る。

 労働者が式神なので、燃料の消費がないのがありがたい。

 ただ、そのままでは収穫したものを腐らせるだけなので、適当なところに売りにいく事にした。

 幸い、運搬用の荷車も無償で一台手に入れていた。

 それを使って、近くの集落まで出向く事にした。



 ご時世がご時世なので、集落はさびれていた。

 兵力を養うために税が重くなっており、その納付で首が回らなくなってる者が多かった。

 なまじ土地が豊かだったのも災いした。

 作物のなりが良かったので、課せられる税も重くなっていたのだ。

 そんな所に突然作物を持ってきた者があらわれたのだ。

 大騒ぎになるのは当然の流れだろう。



「だったら、うちに来るか?」

 窮状を聞いて天成はそう言った。

「土地も畑も余ってるし。

 耕してくれる人がいると助かる」

 その声に集落の者達は即座にのってきた。



 こうして集落一つ分の人口を手に入れた天成は、更に農地を拡大していく事になる。

 天成としてもありがたいところだった。

 式神だけでは手が足りず、労働力をどうしようか悩んでいたところだ。

 そこに身の振り方を考えていた連中がいた。

 だったら連れてこようと思ったのだ。



 その集落の連中をつれてきたおかげで、農作業は更に進むことになった。

 また、それによって経験値が更に手に入り、天成の能力をあげていく。

 式神を動かす事でも経験値が手に入る事は分かっていたが。

 それが支配下の農民でも同じだというのはありがたかった。



 そんなわけで、更に新たな技能系統が出てくる事になる。

『農村指導者』

『農学者』

『警護武士』

『武士団頭領』

『祈念鍛冶』

 何やら凄まじいものが出てきて驚いた。

「なんだこりゃ?」

 おかげで説明音声の声をたっぷり聞くことになる。



 その後も順調に農地を拡大し、周辺の人間を吸収し、技能を成長させていった。

 転移から5年も経つ頃には、そこそこの領主くらいの地域を治める程になっていた。

 また、税をとりたてられる事もほとんどないという事で、その分を民が手に入れる事になる。

 十分に豊かな生活が出来るようになり、それに合わせて子供も増えた。

 すぐに労働力になる事はないが、将来的な発展性は十分に確保されていった。



 そんな矢先である。

 国の役人がやってきたのは。

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