その2
そこまで来て、天成はようやく色々と吹っ切る事が出来た。
今までは理由も特になく、それでも頑張ってきた。
しかし、ここで更に頑張れるのかというと、それはもう無理だった。
訳の分からない世界に呼び込まれ、魔王と戦えという。
能力に開花はしたものの、それはどう考えても戦いには向かないもの。
しかも、肩を並べるのは、いけすかない連中ばかり。
それで何かをやれと言われて頷けるほど、天成は狂ってはいなかった。
(知ったことか)
そう割り切った天成は、とっととその場から逃げる事にした。
幸いと言うべきか。
召喚された場所には多数の人間がいた。
その為、天成一人が姿を消しても誰にも気づかれる事はなかった。
もとより存在を認識されていたのかも疑わしい。
呼ばれるのは殴られるか、蹴られるか、金や物をせびられるか、いわれの無い業務上の問題をでっち上げられて怒鳴られる時くらいだ。
そんな対象である天成がどこでどうしてようと気にかける者はいない。
ストレス解消をしようとして呼び出した時に天成がいない事に気づくくらいだろう。
(こんな状態だからなあ)
いきなり異世界やら召喚やらですったもんだしてる状況だ。
そのストレスで誰かがはけ口を求めるのは目に見えている。
それらが絡んでくる前に、とも考えて天成はそこからトンズラした。
とりあえず適当に歩いてどれくらい経ったのか。
当てもなく適当に歩き続けていった。
仕事鞄に放り込んでた菓子やおにぎりなどで食いつなぎながら夜を明かした。
そんな事をして二日後。
いつしか天成は、人の気配も無い野原に出ていた。
天成が知るよしもないが、そこは放棄されていた場所だった。
かつて魔王の軍勢が押し寄せ、人が大量に襲われた事がある。
その為、大勢の人が逃げ出し、無人地帯になっていた。
その更に先にある文字通りの無人地帯である。
魔王があらわれる前であっても、人が踏み込む事がなかった場所だ。
人のいない所を選んで進んできた結果、そんな所に出てきてしまっていた。
ただ、この地域は既に魔王の軍勢すら撤退している。
戦線は既に別のところに移っている。
戦略的にもたいして重要では無いこの場所は、両勢力から見放され、忘れられていた。
その為、完全なる空白地帯となっている。
お約束的な都合の良さである。
そんな場所だから、天成がやってきても誰も咎めるものはいなかった。
この近くの集落だって、遠く離れた所にある。