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23 シンシア視点-4

目の前に立っている女の子は

最初にこの家に来た時、クラリスを見て失神した子に似ている。

クラリスのお姉さまだろうか?

そう思っていると、その女の子はハキハキした口調で

ノックスさんを睨みつけながら喋りだした。


「黙って聞いていたけれど、もう我慢できません。

女性をそんな風に責め立てるだなんてあまりにも失礼だわ。

紳士として常に相手に敬意を払いなさいと何時も言っているでしょう?」


「お、お母様!?いつお帰りになっていたのですか?」


「えっではヘレナ夫人ですか?」


わたしが思わず声をあげると、ヘレナ婦人は同意する様に

ニカッっと子供のような笑みを返した。

とても成人した子供がいる様には見えない。


「初めまして、シンシア様。

これから少しお時間を頂いてもよろしいですか?」


「あ、ええ…」


「では、こちらへ着いてきてください。侍従の方もご一緒に。

ノックス、あなたには後でしっかりと教育する必要があるわね。

…覚悟しておきなさい」


そう言って睨みつけられたノックスさんの絶望した表情は、

この家で最も力が有るのは誰なのか

一発で分かってしまうほどのものだった。


「いつまでもドレスの様な恰好では窮屈でしょう?

普段着をお貸ししようと思ってるのだけれど

合うものがあるか見てもらいたいの。

これ何てどうかしら?

紫も気品があってとても似合っているけれど、シンシア様の髪の毛はまるでプラチナみたいに綺麗な色だし

同じ色で合せるのも良いと思うの」


ドレスルームで見せられたものは

肌触りの良い生地に銀の刺繍が上品にあしらわれていて

高級感こそ無いがとても品の良いものだった。

ヘレナ夫人は元平民と聞いているけれどセンスは中々良さそうだ。



「あの、ご体調はもうよろしいのですか?

気を失われてからしばらくお姿を見かけませんでしたが…」


「あはは…どうも、血とか傷を見るのが苦手で…

お恥ずかしい所を見られてしまいましたね。

あれからすぐ目を覚ましたのだけれど、義手装具士を探しに家を空けていましたの」


パメラに着付けを手伝ってもらっている最中、

ヘレナ夫人にたずねると、少し恥ずかしそうに笑い返してきた。

その笑い方がクラリスそっくりで思わず顔が緩んでしまう。


「でも失敗だったわ。私が居たらノックスにあんな失礼な振舞いさせなかったのに。

私の教育が不十分だったせいだわ。本当にごめんなさい」


「…いえ、クラリスを巻き込んでしまったのは事実ですから

私を責めるのも仕方がないと思っています」


私がそういうと、ヘレナ夫人は少し納得できないような

考え込む様な表情をしてゆっくりと喋りだした。


「クラリスちゃんはね

昔からずっと何かを探しているみたいだった。

魔法使いで言う、何て言うんでしたっけ?必要な場所に…」


「必要な場所に必要な力を持った魔法使いが現われる、

という運命論ですか?」


「そうそう。その考えが強かったみたいでね

ずっと自分が存在する理由や目的を探してた。

何を思ったのか修道女になろうかな、だなんて言ったりする事もあったのよ?

困ってしまうわよね?」


「だからどうも地に足がついていないみたいで、親としては心配だったんだけれど

帰ってきてびっくりしちゃった。

片腕が無くなって私がショックを受けているのに、本人は笑っているんだもの。

ああ、ついに自分の生き方を見つけたんだなってすぐに分かった。

だからね、私は貴方に巻き込んでくれてありがとうってお礼を言いたいのです」


「命を狙われ片腕を失くしてしまったのにですか?

王子を侮辱したという汚名を着せられても、ですか?」


「う~ん、そう言われると答えに困ってしまいますけどね」


「あっ…ごめんなさい」


「良いの良いの。

ただね、クラリスちゃんの事であまり深く思いつめないで

欲しいなってそう言いたかったの」


私が思わず問い詰めるような言い方をしてしまった事に気づき

謝ると、ヘレナ夫人は手をひらひらさせて笑い返す。


「それは出来ません」


「…なぜ?」


「だって、私のいちばん大切な人ですから」


私がそう答えると、ヘレナ夫人は目を細めた。


「クラリスちゃんはね、性格も魔力も父親譲りだけれど

見た目以外に一つだけ、私とそっくりな所があるわ」


「何ですか?」


「人を見る目があるところ」


そう言って、ウィンクして笑いかけるヘレナ夫人の表情は

クラリスそっくりの優しい雰囲気を漂わせていた。




クラリスの家族たちは考えていたよりも

ずっと私を受け入れてくれている様で、本当にほっとした。

心に余裕が出来ると、やはりクラリスの事が気になった。

もちろん魔物との会話について詳しく聞きたいというのもあったけれど

それよりも彼女がずっと辛そうにしている事が何よりも心配だった。


「クラリス様のお部屋にご訪問いたしますか?」


ヘレナ夫人との服の相談も終わり自室へ戻る途中、

クラリスの部屋の前で思わず足を止めると、目ざとくパメラが耳打ちをして来る。


「まだ起きているかしら?」


「かなり遅くまで起きて何かされているようですからね」


「そう……」


「シンシア様、どうなされたのですか?」


そう声をかけられて振り向くと、茶器の乗ったカートを引いて

クラリスの侍女のミリーが立っていた。


「あっよろしければ

クラリス様と一緒に、お茶になされますか?」


「…いいえ。遠慮しておくわ」


「そうですか…

あの、少しお待ちいただけますか?」


「え、ええ」


そう言って部屋に入ったと思ったら

ミリーはすぐに出てきた。

クラリスのお世話をしなくても良いのだろうか?

誰か他の人が既に中に居るかもしれないけれど、

クラリス専属のミリーではないのもおかしい。


「夜は冷えますでしょう?

暖かいものをお持ち致しますね。

あ、もう歯は磨いてしまいました?」


「い、いいえ」


「良かった。ではサロンでお待ちください」


そう言って笑うと、ミリーがパメラを連れて

サロンの横にある小さな調理室へと入ろうとするので、私は思わず声をかける。


「私も何か手伝えないかしら?」


「し、シンシア様!?

私たちでやりますので…」


「気にしないで。ヘザーさんの所に居た時は

私も手伝っていたでしょう?

何だか身体に沁みついてしまったみたいで

見てると落ち着かないの」


「でっでは…火の魔法でお鍋を温めていただけますか?」


そう言って渡された鍋には、細かく砕かれたチョコレートと

牛乳が入っていた。


「これはチョコレート?

飲み物に溶かすなんて珍しいわね」


「この国には紅茶文化があるのでお茶請けとして固形物にしたものが

好まれますけれど、原産国ではこんな風に飲まれている様ですよ。

本来は更に香辛料も入れるみたいです」


お鍋を焦がさない様に火を調整していると

パメラが私の分は?とこそっとミリーに耳打ちしているのが聞こえた。

ちゃんとありますよ、とミリーが答えた時のパメラのニコニコした表情は

どっちが年上なのか分からない位子供っぽくて、主の私は思わず恥ずかしくなってしまった。

そんなに欲しいのなら、と出来上がったホットチョコレートを

パメラの分を先に注いで渡してあげると、とても恥ずかしそうにしていたので

ほんのちょっとだけ胸がすく思いがした。



「何だかほっとする優しい味ね」


「クラリス様も今同じものをお飲みになってます。

せっかくですからご一緒に、とも思ったのですが…」


「この間の一件から、

クラリスが塞ぎこんでしまっているでしょう?

元気づけられる言葉の一つでも出てくれば良かったのだけれど…

何も思い浮かばなくて、会うのが少し怖かったの」


私が苦笑いをすると、ミリーは少し考え込んだあと

突然前のめりになって私に顔を近づけてきた。


「あの!ずっとお聞きしたかったのですが!」


「なっ何かしら?」


「クラリスお嬢様とシンシア様って、どういう関係なのでしょうか!?

ただの友人、というわけでは無いですよね?」


「ちょ、ちょっとミリー!」


「パメラさんも気になるでしょう?

ずーっと聞きたそうにしていたの、知っているんですからね?」


「うっ……」


パメラ思わず言葉を詰まらす。

クラリスと会話している最中、様子を伺うようにこちらをチラチラと見る事が

多かったけれどそういう意味だったのね、と一人納得していると

パメラが加勢すると踏んだのか

ミリーはここぞとばかりに私に言葉をまくしたてる。


「シンシア様のお心をもっと知ることが出来れば

私たちも何かお手伝いできると思うんです

大変差し出がましいのは承知しています。

でも、私たちがご相談に乗る事は出来ないのでしょうか?」


「その申し出はとても嬉しいけれど…

何を相談すればいいのかさえ分からないわ」


「では、あの、いつからクラリス様の事を、その…」


パメラが必至に言葉を探しているので、

私は先回りして口を開いた。


「……最初は、不思議な子だなと思った。

だって話した事もない私を王子から庇うなんて

どう見てもおかしいでしょう?

色々と辛い事も重なっていたし…正直言って戸惑いしかなかったわ」


「でもね、彼女と言葉を交わすたびに

私の事をどれだけ大切に想ってくれているのか

ひしひしと伝わって来た。

何の見返りも求めず、ただただ、私の心の安寧だけを願ってくれていたの。

私、今までそんな風に想われた事が無かった」


「どうしてそこまでしてくれるんだろう?

どうして、命までかけてくれるのだろう?

もしかして、これが愛されるって事なのかなって

そう意識してしまったらね

…あとはもう、あっという間だった」


ふと顔をあげると、二人は顔を真っ赤にさせている。

少し明け透けに言い過ぎてしまったようだ。


「ごめんなさいね、こんな話面白くも無いでしょう」


「…大好きです」


「え?」


「そういう話、大好きですから!!

ね、パメラさん!」


「わっ私に振るのやめてってば。

…お二人は、恋仲なのですか?」


直球過ぎるパメラの質問に

私は思わず息を詰まらせるけれど、ゆっくりと首を横に振る。


「いいえ、違うわ」


「「えっっ」」


二人の声が大きくハモる。


「お互いに好いていらっしゃるのでしょう?

てっきり、もうそういう関係だと思ってました」


そのパメラ言葉は今まで私たちを恋仲である事を前提で接していた、という事だ。

それなのに彼女から咎めるような言葉を聞いたことが無かったから

私も逆に驚いてしまった。


「…パメラは私たちの事、応援してくれるの?」


「私は常にシンシア様の味方ですから。

幸せになっていただける事が一番です」


「…ありがとう」


「で、実際の所どうなのですか?シンシア様は恋仲になりたくは無いのですか?」


「そっそれは…クラリスがそういう事を考える余裕が出来て

そうなったら、嬉しいとは思うけれど」


ミリーの熱気にあてられて思わず本音を言ってしまったけれど

自分でも今、凄い事を言っている気がしてきて顔が火照ってくるのを感じる。

私が煮え切らない答え方をしたからだろうか

ミリーは目を伏せてしばらく考え込む様な仕草を見せた後

突然何かひらめいたようにニコっと笑いかけて来た。


「シンシア様、やっぱりクラリスお嬢様のお部屋に参りませんか。

ご自身の想いをしっかりとお伝えしましょう!」


「えっ…い、今から?」


「今です!クラリス様に元気が無い今だからこそ、です」


「ぱ、パメラ…」


助け船を求めると、パメラはにっこりと笑う


「一歩踏み出すいい機会ではありませんか

こういうのは勢いに任せた方が後で後悔しないですよ。

それに、クラリス様もきっと喜びますよ」


「…そうかしら」


「そうですよ!」


「そう…そう、ね。そうよね」




何だかよく分からない勢いで、クラリスの部屋の前まで来てしまったけれど

扉を前にすると妙に緊張してしまう。

後ろを振り返るとパメラ達と目が合い

頑張れ、とでも言う様に笑顔で深々と頷かれてしまった。

誰かに背中を押されるというのは

何だか照れくさくて、こそばゆくてなってしまうけれど

決して悪くはない気分だった。


私は思わず顔をほこらばせながら

クラリスの部屋の扉をノックした。







挿絵(By みてみん)


クラリス150cm

ミリー152cm

シンシア165cm

パメラ174cm

くらいの身長差です

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― 新着の感想 ―
[一言] クラリスさんの姉妹と思ったらお母様でしたか、お若そうですねw 相変わらず、イラストがとても綺麗です!ありがとうございます〜
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