9.
最終下校時刻を告げるアナウンスがスピーカーから流れてきた。幽霊探しを終わらせるために流れる訳ではないが、図書委員はホッと安堵したような顔をして下を向いた。
悲鳴の一つも上がらなかった。結局、幽霊は現れなかったのだ。
次々と生徒たちが図書室を後にする。
麻弓はため息を漏らし、スズ以外の五人はあくびをしたり伸びをしたり。唯一、スズだけが物足りないような顔をしていた。
(きっと……騙されていたんだと思う)
もう幽霊探しが終わったのに誰も席を立たないので麻弓がきっかけを作ろうとガタンと椅子を鳴らして立ち上がると、スズ以外のみんなも一斉に席を立った。
スズの頭を見下ろした麻弓は、
「スズちゃん、帰るよ」
声をかけるもスズは無言で動かない。今度は図書委員が七人組の方を見ながら立ち上がった。
「ほら、早く」
それでも動かないので、麻弓たち六人が出入り口へ向かった。こうすれば後を付いてくるだろうと思って、出入り口まで歩いて後ろを振り返ると、図書委員が座ったままのスズの所で退室を促している。
すると、スズは「私が鍵をします」と言い出した。
スズの言葉に、お互いが知り合いなのか、あっさりと図書委員は鍵を渡した。
なるほど。そうやって鍵を預かり、暗がりになるまでここで待つという作戦のようだ。
六人は外に出て、図書委員が廊下の向こうに消えるのを待ってから、ゾロゾロと図書室に戻ってスズの席へ集まる。
「ねえ、まさか、夜までいるの?」「監視カメラがあるからバレるよ」「ヤバいよ」
こうして集まっているのもカメラが捉えて映像を記録しているから、みなは気が気でない。
しかし、スズは気にも留めず、教頭に怒られるまで粘ると言い出した。
麻弓を除いた五人は「熱心だねぇ」と呆れながら退出した。
「スズちゃん、噂に担がれてない?」
スズの横に座った麻弓はそう言って彼女の方へ顔を向けると、スズは擬装用の本に目を落としたまま答える。
「勘だけど、きっと誰かいる」
「誰か? 幽霊じゃなくって? 物の怪とか?」
「魔法使いかも」
まただ。スズの言葉に麻弓は動揺を隠せない。しかし、スズが下を向いたままだったので助かった。
「――いや、あくまで勘だけどね」
勘にしては鋭すぎると、麻弓は思うのだった。