7.
教室に入ると、すでにほとんどの同級生が登校していて、あちこちで固まって雑談をしている。
昨晩観たテレビドラマ、週末の予定、アイドルの近況、最新ファッション等の話に花が咲き、笑い声や短い叫び声や落胆する声が入り交じる。
どうしても隣の会話が混ざるのでボルテージが上がっていき、教室の中は溢れる言葉を釜の中に入れて大きな柄杓でかき混ぜている感じがする。
麻弓は、言葉の洪水の中から例の噂話が聞こえてこないかと、耳を澄まして集中した。
すると、聞こえてきた。「図書館」「幽霊」「夕方」という単語が耳に飛び込む。
それは彼女と席が近いスズにも届いたようで、噂をしている同級生の方を見た後で麻弓の方へ視線を移し、ニタリと笑った。
苦笑気味に笑いを返した麻弓を見たスズが手招きをする。麻弓は、噂をしている同級生の方を一瞥してスズに近づいた。
「ほら、噂しているでしょう?」
仲間を見つけて嬉しそうに笑みを浮かべるスズに、無言で笑みを返す麻弓。
「ね? 調べる価値あるよね?」
その結論を導いた論拠は、単なるホラー好きの好奇心だろうが、麻弓は「そうね」とまだ気が進まない口調で返す。
「もしかして、幽霊嫌いだった?」
迷惑だったかも知れないという後悔の色がスズの顔に現れると、
「幽霊なんかいるわけないし。きっと、噂を広めた人の見間違いだよ」
あくまでスズは悪くないと麻弓は気を遣う。それに気づいたスズは、麻弓の考えていることに踏み込んだ。
「見間違いって、何の?」
「何のって言われても……」
幽霊の噂をしていた同級生がこちらの会話を拾って耳を澄ましているのが見えたので、麻弓は言いよどむ。
「目の錯覚?」
「……まあ、そんなところかな」
言いたい答えをスズが出してくれるので合わせていると、スズが悪戯っぽく笑った。
「案外、魔女だったりして……。ん? どうしたの、麻弓?」
「な、なんでもない」
スズの「魔女も怖いの?」という問いかけを背中で受けた麻弓は、そそくさと自席へ戻った。
心臓がバクバクと大きな鼓動を立てて、手も首も脈を感じる。
魔女という単語を聞いて反応しないようにしていた麻弓だが、迂闊にも顔に出てしまったようだ。
(まさか、気づいていないよね……?)
必死に自分で自分を落ち着かせる麻弓の心の中で、黒い塊のような何かが首をもたげた。
――イヤな予感がする。
直感が警告を発したようにも思えてきた彼女は、深呼吸をした。