6.
スズが提案する「幽霊を見張る」という企画は、想像するだけで炎天下でも背筋が冷たくなる。だが、互いに顔を見合わせる仲間たちは、誰も怖がっている表情を見せないので、臆病な自分を見せないように様子見をしている。
「みんなと一緒なら、怖くないよ。ね? ね?」
その実、スズ自身が怖いので友達を誘っているのではないかと思えてくるが、「そう言うスズが怖いからじゃない?」と茶化す者はいない。
暗闇の中で幽霊を待つのは、何も見えない闇夜に恐怖を抱く人間にとって身がすくみ震恐で歯の根が合わないものだが、五月の最終下校時刻は冬期の夜のような暗さとは違い、明るくて恐ろしいことなどない。
だいたい、そんな時刻に幽霊など現れそうにないではないか。
とはいうものの、万が一にでも怪奇現象が起こったら……それは幽霊かも。
そんな怖いもの見たさから一人が「いいよ」と賛成票を投じたところ、仲間も同じ思いだったらしく次々と手を上げた。
静まり返った広い室内である図書室で仲間が息を殺して見張っているのは、想像するだけでもゾクゾクするほどスリルがあって楽しい、とそっちに気持ちが傾いたのか。
最後まで乗り気ではなかった麻弓だが、周りに背中を押されるようにして、やむなく同意した。
その乗り気ではなかった理由は二つ。
一つは、直感的にだが、噂が嘘っぽい臭いがすること。
もし何者かがいるなら、常時稼働中の監視カメラに影みたいなものが映るはずで、不審者かどうか先生を通じて調べてもらえばいいという冷静な考えも後押ししている。
もう一つは、麻弓の経験上、幽霊騒ぎが起きる場合に魔女が噛んでいることがあるからだ。
昨年、神出鬼没の魔女と渡り合ったとき、やむなく空間移動の魔法を通行人の前で使ったところ、姿が消えて幽霊に思われたことがある。それ以来、人前で魔法を使うことは極力避けているのだが。
(思い過ごしならいいけど……)
相手の魔女は、現在収監中なのだが、脱獄して今通っている学校で自分を狙っていると思うと、警戒の度合いを引き上げないといけない。
麻弓はそう思いつつ、静かに学校の門をくぐった。