5.
「なんで?」
スズは自分が否定されたように感じたのか、ほんの少し額に皺立てる。
「だって、夜中に幽霊を見たというなら、学校の敷地の奥にある図書室の外にいるか、建物の中にいないとダメでしょう? それって、どっちもあり得ないよ」
麻弓の話はもっともである。なぜなら、往来の激しいビル街にある学校は監視カメラとセンサーがあり、24時間厳重なセキュリティシステムで守られている――と生徒も保護者も聞かされているから。
警備員は一日三交代制で数人が詰めているとのこと。たとえ生徒といえども、夜中に「忘れ物をした」という理由で敷地内に入ることが許されないのだ。
「……言われてみればそうね」
きっと、噂が広まる途中で、生徒が夜中に目撃できる場所にいた理由がスコーンと抜けてしまっているのだろうと、スズは推測した。
生徒が厳しい監視の目をかいくぐって敷地内へ侵入し、図書室の幽霊に驚いて逃げ帰ったとしよう。その侵入から逃走までを捉えた監視カメラの映像を、誰も見ていないというのは大問題になりかねないから、きっと何か正当な滞在理由が抜けているに違いない。
例えば、部活で夜遅くなって学校で最後まで残っていたとか。
でも、そんな部活は何だろうと思うと、スズには思い当たるものがない。ならば、根も葉もない噂という線もあり得る。
「じゃあ、単なる噂? それを流して、誰が得をするの? 麻弓ならどう思う?」
「うーん。誰得まではわからないけど、噂の発信元が知りたいなぁ。……と言っても、無理だよねぇ、探るの」
「噂の場合、誰に聞いたかたぐっていくと、立ち話を聞いたとかあってそこで途絶えるからねぇ」
「うちらの学校、ときたま、よく考えると怪しいって怪談話があるから、その類い?」
だが、語り手として名誉挽回したいスズは、噂の中にあったある条件に気づいて、それにすがった。
「――ねぇ。夕方見たって噂もあるよ。今日の下校時刻の期限ギリギリまで図書室で粘らない!? もちろん、みんなで」
スズは、目を見開いて瞳を輝かせながら、そう提案した。