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38.
「あなたの話、馬鹿げている。そんな化け物がいるなんて、本気で信じているの?」
カナミは、笑いすぎてこぼれた涙を拭いている。
「実際に見たことはありませんが、本で読んだことがあります」
「ホントに?」
「ええ」
「だって、牙を持ち、人の生き血を吸う。吸われると自分も吸血鬼になるんでしょう?」
「そうやって増えていくのだと思います」
「鏡に姿が映らないし、陽の光に当たると灰になるから夜に活動するし、コウモリのような羽が生えていて空を飛ぶ」
「ええ、夜行性のコウモリみたいなお化けです」
「昼間は十字架が描かれた棺桶の中で寝ている。それでいて十字架を見るのが苦手」
「あっ、……言われてみれば、ちょっとヘンですね」
「ニンニクが苦手で、初めての家には入れない。怪力だが、流れる水には弱い。粒状の物を見ると、つい数えてしまう。この辺りになると、もう笑うしかないわね」
「はあ……」
「私たち吸血族は、羽が生えていて空を飛ぶ以外は、全部当てはまらないわよ。ああ、おかしいったらありゃしない!」
カナミは、また壺にはまったように笑い転げた。




