31.
左の方からガラガラと音を立てて引き戸が開く音がした。
その音が想定より大きかったのでビックリして悲鳴を上げそうになった麻弓が口を手で押さえ、音のする方へ頭だけ振り向いた。
すると、眉をしかめた黒髪の幼女と、面長で糸のように目が細い痩身の男が部屋に入ってきた。幼女は黒衣を着ていて、男は鼠色のスーツを着ている。
麻弓は、ギョッとして寝転がった体が浮いた。
ここに来てから何度驚いたことか。実に心臓に悪い。
痩身の男は、自分のいた世界の校長先生にそっくりなのだ。もう一人の幼女は見たことがないが、男が校長だとなると彼女が非常勤講師ということになる。
(あれで教師……?)
麻弓が穴が開くように見つめる幼女の黒衣は、ゴシック調でレースやリボンをふんだんに飾った、いわゆるゴシックアンドロリータの典型的な衣装だ。非常勤講師の格好とは到底思えず、先生がコスプレしていると言った方がしっくり来る。
彼女は、背中に手を回して扉をピシャリと閉めると、三歩前に出て立ち止まり、小麦色の肌の生徒と白い肌の生徒を見比べて目を丸くする。
「侵入者と聞いて来てみれば、同じ制服を着て顔までそっくりとは驚いたわ。肌の色は、ちょっと違うけど」
子供っぽい声の彼女は、フッと息を漏らした。
「本当に、誰にも見られていないのよね? ……ほら、そこの寝ている子。あんたに訊いているのよ」
声に似合わず、口調は大人だ。口を押さえていた手を外した麻弓は、恐る恐る「はい」と答え、「の、はずです」と付け加えた。