28.
震える麻弓は、足下の風に気づき、さらに震え上がった。
(もしかして、私の靴が見えていないかしら!?)
もし見えていたとしたら、向かい合わせなので靴の向きが逆だ。これは観念するしかないのか、と麻弓は目をつぶった。
しかし、空からやって来た二人はそれに気づかないのか、会話を続けていく。
「それはそうと、麻弓、めっちゃ早いな」「時間割間違えたとか?」
「そう、それそれ。今日、1限目も2限目も休みってこと、忘れてたから。そう言う今日子も夏子も早いじゃない? まさかと思うけど――」
「そのまさかだよ」「うちらも忘れてた」
三人がドッと笑う。
羽の中の麻弓は、自分を抱いているマユミの声を音として耳で捉え、マユミの胸からの振動として顔で捉え、妙な気分になっていた。しかも、体が揺れるので、少々気持ち悪い。
「じゃ、先に購買行ってる」「来る?」
「ううん、後で行く」
「んじゃ」「購買で落ち合おう」
二人は軽く羽を広げ、一人ずつ窓枠にヒョイッと手足をかけて教室の外へ飛び出し、羽を大きく羽ばたかせて去って行った。廊下を歩くよりは、空を飛ぶ方が遥かに早いのだろう。
羽の中の麻弓は、二人の羽音が遠ざかるのを耳を澄ませて聞きながら、彼女たちの飛び去る姿を想像した。
(この人たちって、もしかして亜人!? 鳥族の人!? それとも……羽の色からして……吸血鬼!?)
麻弓は、「吸血鬼」の言葉が頭に浮かんだ途端、今度こそ失神した。
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