17.
ここは図書室。時刻は20時30分頃。
窓の外からは明るい外灯の光が差し込み、室内の非常灯の光もそれに加わる。
これらの光で図書室には帳が下りて見えなくなった状態の一角はなく、書架の陰に隠れない限り、監視カメラに姿が映る。
今ちょうど、床に腹ばいになった麻弓とヴァルトトイフェルの姿が、室内の中心から見て廊下寄りにある書架と書架の間にボウッと現れた。
腹ばいになったのは、「その方がしゃがむよりも監視カメラに映らないだろうから」と移動直前に麻弓が出した案だった。書架は木製で高さ150センチメートルくらい。麻弓よりちょっと高い程度である。
その腹ばい作戦は成功で、書架から足や頭がはみ出すこともなく、監視カメラに侵入者の姿は映らなかった。
移動した瞬間、ヴァルトトイフェルが短めの呪文を唱える。数秒後、彼らの姿が一瞬にして消え失せた。
「もういいよ、立ち上がって」
腹ばいの姿勢から体を持ち上げたヴァルトトイフェルに促されたが、麻弓はまだ安心できない。
そこで、頭を少し上げて監視カメラが見えないことを確認するが、そこには監視カメラどころか天井すらなく、星一つない夜空が出現したかのように見えた。
彼女は上半身を起こして辺りを見渡す。
周囲はいくつもの書架が見えるも、壁の方や窓の方の書架は部分的でしかない。図書室の光景を切り取ったように見える。
「お椀を伏せた形の結界だよ。中がぼんやり明るいだろ? この光がどこから来るかは、結界の構造を説明しないといけなくて、面倒だから省略」
「なあんだ。知りたかったのに」
「説明したってすぐ忘れるじゃないか」
「ひどっ」
「……さて、君から聞いた魔力の痕跡があった場所って、あそこら辺かな? 多少の座標の誤差はあるから気にしないで」
「そう、あそこ」
「凄いじゃん、僕」
「はいはい」
「でもさ。君が感じた魔力は……感じないな」
「今も残っていたら怖いけど」
「ということは、魔法使いがしょっちゅうここに出入りしているわけではなさそうだね。出入りしていたらしばらくは残り香があるし。……今日はもう店じまいかな?」
「噂では、夕方か夜に出るらしいけど、その夜って時間がわからなくて……。待っていると現れるかしら?」
「僕らの魔力に警戒して現れないか、逆に僕らにちょっかいを出すために現れるか。これは賭けだな」
「もし警戒して近づかなかったら、さすがのヴァルトトイフェルも気づかない?」
「何言ってんだか。僕は半径100メートル以内の魔力は感じるよ。相手が僕よりもっと遠い距離の魔力を感じるなら話は別だけどね。そんな奴は聞いたことがないから大丈夫と思うけど」
書架の高さが曖昧なので追記しました。




