10.
根拠に乏しいスズを横目に、麻弓は辺りを見渡す。
一人きりではないのに、この静けさはゾッとするほど怖い。隣のスズの呼吸音まで聞こえてきそうで、つい、耳をそばだててしまう。
結局、二人だけで幽霊探しの延長戦が始まった。麻弓も、仕方なく、面白そうな本を棚から取り出した。
しばらくしてから、本に夢中になっていた麻弓の後方で、コトッと音がした。
「ねぇ、なんか、音しなかった?」
恐ろしくて後ろを振り向けない麻弓がスズの袖を引っ張ると、横目遣いのスズが「気のせいよ」と冷たく言葉を返す。
幽霊を期待しているなら、むしろスズの方が気配に敏感になるはずだが、気づかなかったらしい。
空耳と思いたい麻弓は、まだ怖いので、油の切れたロボットのようにジリジリと後ろを振り向いた。
と、その時、
(――!)
後方に微弱な魔力が漂っているのを感じ取り、思わず声を上げそうになった。
魔力がある以上、そこには何らかの魔法を行使した者がいたはずである。
(ここで魔法使いが現れるとまずい! 私の正体がバレないようにしないと!)
人影がないか、キョロキョロと見回す彼女の横で、スズが舌打ちをした。
「来たよ、教頭が。足音でわかる」
そう言ってスッと立ち上がった彼女は、「行こう」と麻弓に声をかけた。
後ろに集中していた麻弓は、ようやく耳に飛び込んできた足音に気づき、この場から逃れることが出来てホッとした。
もし、魔法使いと対峙したら、スズを守るために自分の正体を明かすことになりかねないからだ。
ドアが勢いよくガラッと開いて、スポーツ刈りの教頭が飛び込んで来た。
「コラッ! 早く帰れ!」
「すみません。本に夢中になって、つい」
腹の底から声を出して怒る教頭の扱いに慣れているのか、即座に心にもない謝罪と弁解をするスズは、彼に背を向けて、麻弓を見ながらニッと笑った。
さらにスズはウインクをしつつ、小声で謎の言葉を漏らす。
「いたかもね」
「えっ? 物の怪が?」
「ううん。魔法使いとか」
その言葉の真意を一度聞いてみる必要がある。
そう思う麻弓を試すかのように、スズは「魔法少女とか」と言ってペロッと舌を出した。
ギョッとした麻弓は、直ぐさま笑顔で表情を上書きした。
「さすがに魔法少女はないか。でも、誰かはいた。勘だけどね」