1.
[登場人物]
峠 麻弓……高校二年生。魔法使い
新見 スズ……麻弓の同級生。ホラーが好き
ヴァルトトイフェル……ターキッシュアンゴラの雄猫。麻弓に魔法を教えている
そろそろ気象庁の梅雨入り宣言が聞こえてきそうな五月だというのに、高気圧の気まぐれで一足飛びに始まった真夏日。首都圏では、それがもう6日も連続している。
今年の異常気象は常識を覆すほどのスケールで、熱波に襲われて人も動物もあえいでいる。炎天下の雑草は灼熱に我慢の限界が来て項垂れ、刺すような太陽光線に耐える街路樹もいい加減自分の根を土から抜いて足にし、どこか涼しいところへ退避したいという思いのはず。
都会で打ち水を行った所もあったようだが、焼けるような暑さの歩道に水を撒いて濡らしたくらいでは何ら意味を成さず、早々に二度目を諦めた模様だ。
今日も某公営地下鉄Q駅の地上の出口から吐き出された人々は、朝から容赦なく降り注ぐ太陽光に目を細め、熱気で雲が溶けて消えたかのような青空を恨めしそうに仰ぎ見る。
その多くは隣接するビル街のサラリーマンやらOLだが、彼らの中に同一のセーラー服姿の女子高生がたくさん交じっていた。
彼女らは、そこから歩いて300メートルくらい先にある中高一貫の女子校の生徒たち。
学校側の計らいでもう夏服に着替えて良いことになったので、全生徒が真っ白な上着に水色のストライプの襟と水色のスカートを着用し、暗い色のスーツの上着を手に持って汗を拭く会社員の列を縫うように、眩しいホワイトと涼しげなライトブルーの制服を見せつけるように通り過ぎて行く。
ペアを組んだり、三、四人の集団になったりして、突然の笑い声やら驚きの声やらを振りまく生徒たち。一方で、そんなはた迷惑な連中に近寄らない、交わらないとばかり、ソロで黙々と歩む生徒たち。
そんな彼女たちが過ぎ去った後で、六人の固まった集団が地下鉄の階段を踏みしめて地上に現れた。