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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
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熟練ぼっちの日常5

 

「では以上です。号令お願いします」


  今日最後の授業が終わり、帰りのSHRで教師が明日の予定と別れの挨拶を告げた。


「この後、部活じゃん。だりー」


「ゲーセンでも行こうぜ」


  皆が一斉に動き始める中、俺はポケットからゆったりとケータイを取り出して時間を確認した。


 三時三十分。今日はゆっくりでいいか。


 俺は、この影春学園に電車で通っている。家から駅まで徒歩で十分。電車に揺られてまた十分。そこから学園までさらに十分の計三十分かけてこの学園に通っている。


 俺の目的の電車が来るのは十五分おき。次に来るのは三十五分。ここから駅まで十分なので間に合わない。その次の五十分の電車に乗ることにした。


 人が少なくなった教室をゆったりとした歩みで出て行き、廊下ではしゃぐ雑魚どもの間をくぐり抜けて階段を降りていく。


 二学年は四階なので階段を降りたり上ったりするのが非常にめんどくさい。一階に辿り着く頃には少し息が上がっちゃうぐらい。俺の体力なさすぎだろ。


 校門前で「さよなら、気をつけてな」と挨拶している教師に歩きながら会釈し校門を抜け駅へと向かう。


 前を歩く人の歩調に合わせ、周りの風景へと目を向けた。急いで歩くのも疲れるしな。


 春風が舞い、木々が揺れ、木の葉も春風に合わせるように手を繋ぎ共に舞う。そんな木に合わせて陽光に照らされる影も揺れる。そんなのは御構い無しにキャベツ畑の周りには白と黄の蝶が踊る。そんな当たり前の光景。


 見慣れた光景も改めて見てみると色々な風景が美麗に見えた。写真に一枚写しておきたくなる。こんな時独りでいる事を幸福に思う。周りに人がいたらそれどころじゃないだろうから。


 友達と喋りながら歩いているせいかゆったりとしたペースな前の人に合わせて歩いていたので普段より少し時間がかかったが駅に到着した。


 やはりというべきか、駅は影春学園の生徒で非常に混雑していた。


 隙間隙間を何とか縫うように抜け、人が少ない場所へとたどり着く。


 少しすると電車がそろそろ到着する旨を伝えるアナウンスが聞こえ、そこから数十秒後、電車が到着した。電車はプシューと音を上げドアを開く。開いたドアに乗り込み、電車の連結部分に寄りかかってつり革に捕まりカバンを下ろした。


 ここが俺の固定位置。


  何年も同じ時間帯の電車に乗っていると自然と自分が乗る場所、定位置というのが出来てくる。それが俺にとってはこの場所だ。意外とこの場所楽なんだよ。こう背中を預けられる感じがね。数多の戦場を駆け抜けた歴戦の友みたいな。


  目の前に座る影春学園の制服を着ている女子もそうなのだろう。いつもこの席に座っている。この場所がきっと彼女の固定位置。


  その女子は、いつも顔を軽く伏せて本を読んでいるので顔はよく見えない。どこかで見たことがある気がするのは俺の気のせいだろう。


  ジロジロと見続けるわけにもいかず、ポケットからイヤホンを取り出し自らの耳に装着し音楽を流した。


 その時少し視線を感じた気がしたが、周りに俺を見ている者はおらず、ただの気の所為だと独り納得した。


 俺みたいなぼっちは視線に少し敏感過ぎるからな。


 毎日この電車に乗ると似たような視線は感じているがいつまでたっても慣れはしない。ちょっと視界に収められたぐらいでも過剰に感じちゃうからな。あれ? 今見られた? おかしな所ある? ってすぐ心配しちゃうもん。


 ぼっちを覗く時、ぼっちもまたこちらを覗いているのだ。


 これはかの有名な哲学者が残した言葉で、ぼっちの繊細さと視線に敏感なぼっちを揶揄した有名な言葉だ。……違ったっけな。


  ガタンゴトンと電車に揺られること三駅。俺の家の最寄り駅に到着だ。カバンを持ち電車を降りる。


  改札を抜け、俺は家までの道をゆっくりと歩き始めた。


 陽はすでに傾き、焼きただれたような淡い光が俺をただ照らしていた。その光に向かって足を進める。



  これが『ぼっち』の俺のいつも通りの日常だ。





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