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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
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熟練ぼっちの日常3

 

 授業が始まった。教師が出席を取り始める。


 俺は自分で言うのもなんだが勉強はそこそこ出来る方だ。そこそこと言っても中の上の域を出ないとは思うが。


 この影春学園は平均よりも偏差値が高い。普通科とはいえそこである程度上位の位置に在しているのでそこそこと称しても構わないだろう。


 俺は英語を苦手科目としているが、他は全て平均越え。世界史と現代文に至っては学年でもトップクラスだ。


 まぁ、つまり何が言いたいかと言うと、そんな俺の授業の受け方についてだ。


 俺は授業ではなく家で勉強する派の人間だ。だから学校の授業はぶっちゃけしっかりとは聞いていない。


 それにさっきも言ったが授業中ですら喋る奴はたくさんいる。こんなうるさい空間で勉強なんかやってられるか。先生、お願いします。イヤホンの着用許可を下さい。そしたらちゃんと勉強するんで。ダメ。そうですね。知ってました。


 俺の授業の受け方はもっぱら休憩と暇つぶしに充てる。そんなスタイルだ。


 本来勉強に費やす時間に休憩し、英気を養う。そんな背徳感が心地良くリラックス出来る。それが俺にとって最高の授業の受け方だ。……えっ、英気を養ってやる事? うーん、サーフィンかな、インターネットという情報の海をこうザパァーって乗りこなしてね。


 ノートを開く。それはまるで一度たりとも足を踏み入れることを許したことのない処女雪のように白く純朴で、それでいて光輝いて見えた。わぁ、真っ白。ヤベー、期末終わりのノート提出どうしよう。


「それでさー」


「あっはっは」


「これを座標平面といい」


 ノート書くのキラーイ。だからお絵描きするのー。と若干幼児退行しながら絵を描き始める。授業中のお絵描きはいい時間潰しだ。


 今日はなにを描こっかな。


「でねー」


「その中でも図中の」


「あっはっは」


「変顔すんなや!」


 今日の題材を決める。何がいいっかな……動物にしよう。そうしよう。猫でも描こっかな。


 どうでもいいけど花いちもんめは闇のゲームだと思うの。何時までたっても名前が呼ばれない子の気持ちを考えてあげてほしい。「あの子が欲しい!」「あの子じゃ分からんっ!」「相談しよう」「そうしよう!」「くーろせくんが欲しい!」ってなる展開をずっと待ってたんだけどな……。いやまぁ別に俺のことじゃないんだけどね…………ホントだよ、違う黒瀬君だよ。俺は手を繋いですらもらえなかったから……グスンッ。


「やっばいってそれさー」


「あっはっは」


「消しカス付けんなって!」


 スラスラとシャーペンをノートに走らせていく。


 五分ほど掛けて描き終えた猫? を見てみる。


 ……なんだこれ、猫? 猫耳つけた女の子? 一体どこの誰が猫耳っ娘を描くっていったの? 俺は猫を描くって言ったぞ。どういう事? 全くわからんのだが。


「レン、真面目に授業なんかやってんなよ!」


「うっせーな、お前らと違って俺は成績そんな良くねーからやんなきゃいけないんだよ」


「……なら私が教えてあげてもいいけど」


「ん? 佳奈なんか言ったか?」


「なんでもない!」


 その時授業中にも関わらず喋り続けてるリア充さんが目に入った。


 あいつらか? あいつらのせいか? 俺が猫じゃなく猫耳っ娘のリンちゃん(今命名)を描いてしまったのはあいつらのせいなのか? 俺の精神的問題じゃないのか。


 ふぅー、びっくりさせんなよ。俺の頭がおかしいのかと思っちゃったよ。危うく病院に連れてかれちゃうところだった。まったく許せんなあいつらは! オコだぞ! オココだぞ!


「この象限の中を」


「あっはっは」


「あとでアイロン貸して、朝走ったせいで髪崩れちゃった」


「え、なに。聞こえないからもうちょい大きな声で言ってー!」


 うーん、気を取り直して、次は――。


「あっはっは」


「お前それは面白すぎるわっ!」


「ラケット体育館に忘れてきたっちゃ!」


「え、やっぱり聞こえないからもうちょい大きな声で言ってー!」


  ピシッ。


  握ったシャーペンに力を込めすぎたせいでシャーペンの芯が折れる。


 ……うるせーよ! 動物園かよ! 無視しようと思ったけど無理だろ! こんな環境で勉強しろとか頭オカシイんじゃねーの。


 数学の先生。注意しようよ。職務怠慢だよ。こんな状態で授業続けるなよ。


 それにヘアアイロンをアイロンって略すな。ラケット忘れた子は確実に鬼のツノが生えてるだろ。


  うるさすぎてまともにお絵描きも出来やしねー。

 

  俺はこの苛立った気持ちを抑えるために、仕方なく瞑想という名の妄想の世界へと旅立つことにした。妄想は俺の得意分野だ。常に独りだからいつも妄想してるし。


  今回の舞台はテロリストに占拠された影春学園。


 男子なら誰もが一度は憧れ妄想する『テロリストからみんなを守っちゃう妄想』だ。俺は頻繁にこの妄想をするのだが、そのせいで妄想の中の俺は銃弾を素手で掴み取るレベルまで進化していた。


 だが俺が進化すると共に敵も進化している。この前はテロリストが持っていた機関銃で蜂の巣にされて無残に殺されてしまった。学校を占拠しに来たテロリストが機関銃を持ってるなんて危険な国だぜ、この国は!



  妄想スタート!



  まだ陽も高い晴天の青空の下、教室にテロリストが攻めこんでてきた(ゲーム風)。


「動くな!」


「あっはっは」


「静かにしろ!」


「あっはっは」


「お前、舐めやがってっ! 一人くらい構わないだろっ、見せしめだっ!」


  そういってテロリストは引鉄を引いた。笑い声とテロリストの声しか聞こえなかった教室にパンッと乾いた銃声が響く。銃口は確実にクラスメイトの躯を捉えていた。


「なんで立ってんだよ!」


 テロリストが何が起きてるか分からないような困惑の声をあげた。


 本来四肢に力が入らず倒れるはずだったクラスメイト。だがクラスメイトは崩れ落ちず、その前には庇うような形で俺が立っていた。


 パラパラと俺は掴み取った銃弾を潰し床に落とす。


「あっはっは」


「ひっ、なんだ!?︎ なんなんだよ、お前はっ!?」


  テロリストが狂ったように俺に向けて銃を乱射する。だがその全てが俺には届かない。


「おかしいだろっ! 銃だぞ!? なんで死なないんだよっ!」


「あっはっは」


  カチッカチッとテロリストの持つ銃から音が漏れる。


「ふざけんなっ、ふざけんなよっ……」


 弾切れか。俺がもう一度銃弾を握り潰し破片を地面に撒くと絶望したようにテロリストはガクリと膝を折った。


 今のうちにクラスメイトの避難を。


 そう考えたその時、廊下からいくつもの足音が聞こえた。


「ふひ、ひ、ひゃっはは! ザマァミロ! これでお前も御終いだよ、この化け物!」


  そう言うテロリストの手には無骨な無線機が握られていた。しまったな、本隊の登場か……。


  バンッと大きな音が鳴りドアが壊され、そこから七、八人のテロリストが侵入してくる。


「動くな! 動いたらお前以外の皆が死ぬことになるぞっ!」


「あっはっは」


  このままでは守るべき存在が死んでしまう。それではミッション失敗だ。俺のミッションは誰一人被害を出さずにテロリストを殲滅すること。


 ならば。


「よーし、抵抗するなよ! そのままの体勢で伏せろっ!」


  俺は手を挙げ降伏の意を示しながら今日覚えた技、転移を使う事にした。


 転移っ! 心の中でそう叫ぶと周りから人が消えた。俺とテロリストをその場に残して。


「何が起きたっ!? なんであいつら居なくなってんだよっ!」


「お前なのかっ? な、なんで笑ってんだ! ほっ、本当にお前はなんなんだよっ! この化け物がっ!」


「あっはっは」


  周りから突如として人がいなくなったことで、テロリストの俺への恐怖がより深く顕著に浮かび上がる。


「こんな奴とやってなんかいられるかよっ! クソッ!」


「嫌だ、こんな奴と一緒の空間にいたくないっ!」


「あっはっは」


  俺は奴らの首筋めがけ……はーい、ストップ。


 ねぇ良い展開じゃん。良い展開なのにさ、異物が混じり込んでるじゃん。ここからカッコよくテロリスト倒してさ、クラスメイトの超絶美少女がさ、俺に惚れる流れじゃん。なのに異物紛れ込んでるじゃん。


 なんで助けたクラスメイトは笑っとるん? 恐怖で頭おかしくなったん? それになんで転移されてないん?


 いや、分かってる。俺が絵を描いてた時からずっと笑ってた奴だろ。妙に印象に残ってたんだよ。妄想って繊細なものだからね。些細なことでも影響が出るから入り込んできたって事だろ。


 現実だけじゃなく、妄想の世界にまで遠慮なく侵食し踏み躙るのか、クソDQN共め……。


 ……はぁ、もういいや。気分が乗らんし疲れたわ……。寝る。


  俺がせっかくの妄想の邪魔をされ、机に顔を伏せ、鼻をすすっていると授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。


  ……これが、ずずっ、これが俺の授業の受け方だ! ずずっ。ふんっ。


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