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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
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新米ぼっちは理解する3

 

 久し振りに外でゆっくりと昼食を取り終えた俺は、図書館に行く前に一旦飲みかけのペットボトルを置きに教室へと戻って来た。


 春風を感じながら食べるパンは予想以上に美味かった。


 もうそろそろ夏が来ることを告げる煌びやかに熱を発する太陽もいいシチュエーションだった。そう思えば二年生に上がってからはずっと教室で食べてて外で食べてなかったな。通りで随分と久し振りに感じた訳だ。


  教室へ入るとまず目に入って来たのはこちらを見ている莉佐と運動系部活グループの女子達。


 また絡んでんのかよ。莉佐も一回強く断ればいいのに。まぁ無理なんだろうけど。あとなんでこっち見てるんですか? なんか付いてる? ちゃんと食べ終わったあと口元は拭いたはずだけど。


 何か言ってくるわけでもないので、スルーして自分の席へと向かう。窓側の一番端。我ながらいい席を引いたもんだ。


 ぼっちは席替えの時だけめちゃくちゃ運が良くなる。


 中等部から今まで殆ど、一番後ろか端の席しかなったことがない。


 今回も窓際の一番後ろといういい席を引き当てたんだが、実は俺は窓際よりも壁際派なんだよね、トイレ行く時に凄い楽。窓際からドアまで机と椅子と人を抜けるのにはそれなりに労力がいる。


 自分の席に向かっているとそこに見慣れない、自分の物ではないビニール袋が置いてあることに気づく。


 おいおい、なんだよ。いじめか。それともなんかのトラップか? いやポジティブシンキングでいこう。まだラブビニール袋の可能性も残っている。


 説明しよう! ラブビニール袋とは!


「ずっと前から好きでしたっ。これ後で見てくださいっ」って放課後の教室で女の子に少し重みのあるビニール袋をこう、なに手渡されるんよ。

 で開けると中にはチョコが入っていてOKだったらクッキー入れて送り返すっていうラブレターに取って代わる新しい告白法なんだけど。どう? 咄嗟に考えた割にはなかなかロマンチックで悪くないよね。


 チョコレート、チョコレート……と神に祈りを捧げながら慎重にビニール袋を覗くと中には中身のないパンの袋や飲み終わったパックジュース、食べ終わったお菓子の袋なんかが入っていた。


 はい、完全にゴミ袋ですね。


 ラブビニール袋じゃねーのかよ。中にチョコ入ってんのかなーって期待しちゃったじゃねーか。誰だよこんな場所にゴミ置いたやつは。俺の席はゴミ箱じゃないですよー、机使うのは良いけどゴミは片付けてけよ。


 常識ねぇなー。たくよー、パンピーはゴミ箱の位置も知らんのか。えっ、俺の席だし良いと思った? むしろそこがゴミ箱? うるせー氏ねっ!


 誰のゴミかは知らんけど、邪魔だしとりあえず捨てるか。


 ぼっちは心が広い。


 ぼっち生活の中で色々な経験をしすぎてこの程度じゃ、ちょっとめんどいな、ぐらいにしか思わない。俺の場合、家でも扱き使われまくってるからな……。この程度じゃ動じないってもんよ。何も言わずにゴミを片付けられるなんて黒瀬くんカッコいい、抱いて! となることを密かに期待していなくもない。


 仕方なくゴミを持って、廊下へ向かいゴミを捨てて戻って来た。図書館に行く気分にもなれず、椅子を引いて普通に席に着き、ポケットからスマホとイヤホンを取り出した。


「……なんなの? ……気持ち悪い」


 おっと、意味がわからない。


 そこの運動部の女子。流石に意味がわからない。なんで今俺は罵倒されたんだ。顔なのか? やっぱり顔なのか? 男は金と顔なのか? 俺はどっちもダメなんだけどそれが原因ですか。


 それともなんだ。ゴミ捨てたのがダメだったのか?


 もしかして、いやもしかしなくてもお前らのゴミか?

 それで捨てられて怒ってんのか。いや、それでも人の机にゴミ置きっぱなしのお前らが悪いだろ。俺が来ても捨てる素振りすら見せなかったし。


 それに、俺に対して気持ち悪いなんてちっぽけな罵倒は効かない。


 知ってるか? 「気持ち悪い」より「キモい」の方が精神的に来るんだぜ。ぞんざいに扱われてる感がすごいもん。


 ぼっちは精神力、メンタルが強い。


 怪我の功名、長年のソロ活動の末、得た精神力は簡単には崩れない堅硬な鎧のような強靭さを誇る。


 小学生の無垢さ故の「お兄ちゃん、友達いないのー」みたいな時速百六十キロを超える豪速球にも、隣になった席の子がいつもは元気でみんなの中心みたいな子のはずなのに俺の隣になった瞬間、無口になって俺をいない者として扱う、切なさと虚しさが入り混じる席替えの時間も、俺は全部耐えてきた。


 人は本当に嫌いだと視界に納めすらしないからなぁ。好きの反対は無関心とはよく言ったものだ。……常に周りに無関心を築かれている俺は一体……。


 そして何よりぼっちは不意に訪れるあの虚無感にも耐えてきたんだ。天災の如く、ぼっちの心をノックもせずに荒らすだけ荒らして去っていくぼっちにしか分からないあの虚無感。本当に怖い。あれの正体なんなの。


 そんな無敵の俺に対して、そんなショボい口撃しか出来んとはな、もっとあるだろ。「いつも一人でニタニタして気色わりーんだよっ、童貞っ!」とか「私たちのゴミが欲しかったのぉ、ゴミ同士お似合いだね……でも不思議っお前ゴミよりもよっぽどゴミらしいよね!」とかさ。


 ……は。ふざけんな。

 妄想の中だろうと言っていいことと悪い事があるだろうが! お前ら最低かよ。


 俺は罵倒された腹いせに罵倒してきた彼女をふっ、と鼻で笑った。


 こういうやつらは口だけで行動に移して来ないから楽だぜ。



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