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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
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熟練ぼっちに苦手はない(大嘘)5

 

「かっー! 疲れたわー!」


「お前ずっとボール追ってたもんな。意味ねーとこまで」


「一言多いわ!」


  着替えがあるため普段の授業よりも早く終わった体育の授業。


 俺は他の男子よりも圧倒的に早く着替え終わり席に座っていた。男だらけの空間は正直言ってむさ苦しい。あと汗クセェ。


 見せつけるように裸で教室内を動き回る運動部の男子が本当に腹立たしい。男の裸なんか興味ねぇっつーの。お前ら女の子になれ。


「えっと……黒川」


 そんな中、サッカーの試合で大活躍を見せ、俺の恩人でもある四組の「サッカーやろうぜ!」とか言いだしそうなサッカー部の男子がまだ制服に着替え終わってもいないのに声をかけてきた。うーん。俺の……まぁいいや。


 それよりこいつ、ぼっちに声を掛けてくるとか……マジかよ。


 ぼっちは常に『オーラ』を放っている。


 それは別名『話しかけんなオーラ』と呼ばれるものだ。人が「あ、なんかあいつ話しかけづらいな」となる八割がこのオーラの原因だ。ちなみに残り二割は妖怪のせい。


 そのオーラを突破出来るものは限られている。


 例えば、ラブコメ主人公のようにコミュ力が天元突破している者。例えば、空気が読めない者。例えば、優しさに満ち溢れた者。例えば。


「お前、部活入ってんのか?」


  そう言ってサッカーボーイは照れ臭そうに頬を掻いた。男の頬染めって誰得なんですかね。少なくとも俺には得がないんでやめてもらえますかね。


 部活でスカ。入ってないですねー。入れる訳ないですねー。否定の意味を込めて首を横に振った。


「そうか……」


  そうだよ。


「ならさ、サッカー部来いよ」


  は? どうしたんだ、こいつ。「なら」って何? 俺が入っていいのか……いや良いわけねーだろ。お前、俺がサッカー苦手って知ってて言ってるんか。


 第一、お前見とったやろ、俺の超絶パス。マジでゴミクズだったよ。サッカーボーイの君がいなかったら俺大不評だよ。マジでありがとう。ていうか、あれどうやって拾ったの? 君すごすぎない?


「コーチと顧問には俺から言っとく。だから心配は要らねーけど」


  いや、無理です。迷惑かけるだけなんで。


 俺を天才ゲームメーカーか何かと勘違いしているサッカーボーイに向かって、現実を知らしめるため俺はプルプルとゆっくり小さく首を横にふるった。こうして俺は僅かな欲求を満たすのだ、はっはっは! 死のっかな。


「……そうか、でも気が変わったらいつでも言ってくれよ」


  サッカーボーイは一瞬残念そうに眉を下げたがすぐに爽やかな笑顔を作り、そう言って友達の方へと戻っていった。


  悪いが変わらないんだよなー。


 集団競技は出来ない訳では無いが、やらなくて済むならそれに越したことはない。自分にボールが回ってきた時のプレッシャーが凄いんだよ、ミスったらなんか言われるんだろうなー、て考えちゃうから。ほんと酷いよね。なんでちょっとミスしただけで「次はあいつと別チームがいいよな」とか言うんだよ。


 そのせいで文句言われないようめっちゃバスケ練習したわ。ほんと人間は酷うござんす。


  爽やかサッカーボーイには悪いが、俺が彼の期待に添える時は一生来ないだろう。


「つーか、今日の体育、うちのクラス一人少なくなかったか」


「知らねーわ」


  俺に期待してはいけない。


  常に自分の事しか考えてねーから。どうやって今日一日を生き延びようかと四苦八苦しているのだ。期待に応えてる暇なんてない。


「話しかけるでござるよ……! 話しかければ遂に某にも友達が……!」


  何気ない普段の一日はお前らにとって些細なことでも、ぼっちにとっては重大なことなのだ。一日一日を必死に藻搔いてる。


 現文の授業の時に「じゃあここ、黒瀬。お前、音読しろ」とか言われたりした瞬間に死にたくなるほどだ。その後の「声小さいぞ! もっと大きい声で読め! 最初からっ!」でまた死にたくなる。なんで結構読み終わった後に言うんだよ。最初に言え、最初に。


「……なぜ、なぜでござる……! 某の足と口、何故動こうとしないでござる……⁉︎」


  くぁぁ。


 今日はなんかスンゲー疲れたな。超ねみー、欠伸がすげー。


 机にうつ伏せになって着替え終わり続々と教室を出て行く四組の生徒を横目で見る。丁度、視界に収まったのはサッカーボーイ。


「動け……動くでござるよ……!」


  あぁ、そうか。


  そう言うことか。

 

 人は簡単には変わらない。


 慣れない事をしたり、慣れない事が起きると疲れるよな、そりゃ。


 俺は上げていた顔をうつ伏せに戻しイヤホンを嵌めた。


「友達――友達が欲しいでござる……!」



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