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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
2/72

熟練ぼっちの日常


 友達――――友達が欲しい。


 頭の中に過ぎったそんなあり得ないたわごとを、首を振り手に持った紙に意識を集中させることでかき消した。


 紙には濃い質圧の少し汚い字で、二年三組 九番 黒瀬 影莉という俺の名前と、端正な赤い少し太めの字で二十八という無慈悲な数字が書かれていた。


 はぁ、と深く息を吐き、ちょっと今回は勘が当たらなかったなぁ、と軽く額を押さえた。


 英語二十八点という俺にあるまじき点数。勿論高いという意味でなく。


 そんな点数を取ってしまったからだろうか、友達が欲しいなんて馬鹿げた考えが頭をよぎったのは。友達がいたからといって点数が伸びるなんて、そんなことあるわけがないというのに。



 俺は、ぼっちだ。



 最近流行りの実は友達いる系の名ばかりのファッションぼっちとは違い、俺は友達ゼロの選ばれし真のぼっちである。


 いや、マジであいつらありえないから。


 友達いない系、少ない系アニメ主人公の最初の独白で共感し、仲間意識を持つ事二桁。その全てでAパート終了後のCM時には、抱いた仲間意識は殺人意識、つまり殺意へと変貌した。


 アイツら、違うクラスには話すやつがいたり、昔仲のよかった美少女の幼馴染がいたりすんだぜ。もしも、そんな人物がいなかったとしても一話で美少女と三百パーセンツ邂逅するのだ。そこからなんやかんやありラブコメが始まるのだ。


 それなのに「俺はぼっちだぞー。一人の俺かっこいいぞー」とか「友達が欲しいよー、一人は寂しいよー」とか、いつまでもぼっちに縋り付きやがって。舐めてんのか! 


 確かにぼっちはカッコいい。そこは俺も同意だ。だがお前らなんかぼっち(笑)だから。カッコいいぼっちじゃないわっ! 


 お前らと違って俺なんか家族以外だと、先生と店員さんぐらいしか話さないわ。それ以外基本独り言しか言わねーよ。会話出来る人がいる奴は二度とぼっちとか名乗るんじゃねーぞ。


 誰か書いてくれないかなー。ぼっちのラブコメ。偽物のぼっちじゃなく、本物のぼっちのラブコメ。もしそんな小説や漫画が売ってたら、俺なら自分用に十冊。布教用に二十冊、いや三十冊は買っちゃうのになー。世界中に存在するぼっちのみんなも同じくらい買うからミリオンセラー間違いなし! 漫画家さん、ライターさん! お願いします! 書いて下さい!! ……でもいつも独りのぼっちってどうやってラブコメすんだろ。会話ゼロになっちゃうけど成立すんのかな。


 ラブコメかどうかはさておき、ぼっちを活かせば既存の小説や漫画をもっと昇華する事が可能だと俺は思うのだ。


 知り合いだろうが知り合いじゃ無かろうが、会話という点に重点を置いて仕舞えばそれはぼっちの個性を殺す事に相違ない。ぼっちという個性を引き抜いて、変わり者で捻くれ者が主人公でも構わなくなってしまう。


 おかしいと思わないだろうか。ぼっちが主人公のはずなのに独白より会話文の方が多いだなんて。独りでいる時間よりも、誰かと過ごす時間の方が多いなんて。


 ぼっちとか友達が少ないとかタイトルに入れといて一話目で会話が始まったら窓からその本を放り投げるわ。壊れたパソコンとおんなじ扱いしてやるわ。


『ぼっち』とは『独りぼっち』の略称なのだ。だから独りじゃないとぼっちではない。故にひらがな表記が妥当。カタカナ表記だと一人ボッチってなっちゃうから個人的には違うと思ってます。


 残念ながら評価とは嫌がったところで周囲がするものだ。自他ともに認めるなんて銘打っていたとしても誰かと駄弁って、馴れ合って、戯けたりなんかしていたらそれはぼっちと言えるのだろうか。周りはぼっちと認識するのだろうか。そのぼっちに価値はあるのだろうか。


  勘違いするな。ぼっちとは比類無きステイタス。


  お前らに教えてやろう、これを破ったらぼっちとは認めない、黒瀬影莉流、『ぼっちの定理』をな。


  一つ! 友達がいない!


  二つ! 彼女がいない!


  三つ! 会話がない!


 ないないないの無い物尽くし。三つの無いで夢は見ない。


 これがぼっち界のスーパースター事、黒瀬影莉が定めたぼっちの定理だ。


 ピタゴラスの定理、正弦定理に続きこの世で有名な三大定理でもある。 この定理を見つけ出した天才ソロ学者、黒瀬影莉は後にこう語っている。


  友達? はっはっは、俺を馬鹿にするな。そんな者いるわけないだろ。と。


 ファッションぼっちと違い、俺はまず友達を作ろうとは思わないし、友達が欲しいとも思わない。……ただ可愛い彼女は欲しい。死ぬほど欲しい。


  基本的にぼっちは一人で、否、独りでいることを悲観してなどいない。むしろ独りの自分を誇りに思っているのだ。それは、ぼっち歴が長ければ長いほど比例していく。かくいう俺も独りでいることを苦と感じていたのはもう何年も前だ。


 なんでだっけなぁ。中学、いや小学校の三者面談の時、親の前で「貴女のお子さんは友達と仲良くできない」って連呼されたんだっけな。先生から向けられる協調性が欠片もない俺に対する憤りの表情、親から向けられる全てを悟ったようなほんのり優しい生暖かい表情。二つの感情が交差し入り混じり、俺を囲むあの空間。あの時はちょっとだけ死のうかと思ったが今やあれも笑い話だ。どうせ交差するのならあんなクソみたいな表情じゃなくて科学と魔術にしてほしい。


 友達が欲しいとは思わない。友達が欲しいなんて思うぼっちは、ぼっち歴三年未満の新米ぼっちぐらいだ。


 さて話を戻そう。


 今の問題は英語のテストだ。


 二十八点。


 これは俺にとって非常にマズイ点数だ。


 今回の英語の平均点は確か五十二点。赤点は平均の半分以下だから、今回は赤点から逃れる事が出来たが、まだ進級して初めてのテスト。つまり簡単なはずなのだ。期末テストは今回の中間テストよりも難しくなる事はほぼ確実だろう。もしかしたら期末テストでは赤点を取ってしまうかもしれない。それは非常にマズイ。


  ぼっちとは面倒を嫌う生き物だ。不用意な面倒事に巻き込まれる、まぁ今回は俺の実力不足によるものではあるのだが、兎に角、面倒事はぼっちにとって避けるべきこと。夏休みに補習なんてもってのほかだ。夏休みが潰れるなんて事あってたまるか。


 俺の夏休みは忙しいのだ。夏は新作ゲームも沢山出るし、積みゲーだって溜まってる。本や漫画も読まなきゃいけない。忙しいわー。あぁ、忙しいわー。


  この点数を見れば一目瞭然だとは思うが、俺は主要五教科の中で英語を苦手科目としている。だが少し言い訳させてもらいたい。


 俺が英語を苦手としているのにはいくつか理由があるのだ。


 まず一つに俺はジャパニーズだという事。


 俺は日本語で育ってきたのだからいきなり他の言葉を覚えろと言われてもそれは流石に理不尽すぎる。それに国語できれば英語出来るなんて嘘っぱちだからな、覚えとけ。基本的に教師の話は元々ある程度出来る事が前提だから。出来ない奴は出来ないし、出来る奴は出来るんだよ。


 そして二つに英語はペアワークが多いという事だ。

 ペア組んで読みあってー、とか、近くの人と話し合ってー、だとか舐めたことをおっしゃります教師様が多いのだ、英語という科目は。その瞬間、俺のやる気は急降下。そこらのジェットコースターに負けないレベルの直角急降下を見せる。元々俺は授業をちゃんと聞いてない事が多いのだが英語に至っては何も聞いていない。右耳から左耳へと英単語は全て抜けきってしまっている。

 俺が覚えている英単語とか「バスト」と「ヒップ」と「エッチ」しかない。使う機会が訪れるのだろうか、この下ネタ達は……。


 そんなペアワークだかなんだかばっかりやってるせいか俺調べだと、英語の教師は体育の教師と並び、ぼっちに嫌われやすい教師ランキング一位だ。ザマァミロ。


 ちなみにだがぼっちに嫌われたところで教師陣に影響は一切合切ない。ゼロ。


 通常、生徒に嫌われると授業進行の妨げになったり、教師いじめが起こったりするのかも知れんが、ぼっちは圧倒的ゼロ。影響は絶対にない。教師の悪口を言い合う友人もいなければ、教師に歯向かうような度胸も行動力もない。出来ることは睨むことだけっていうね。……自分で考えてて悲しくなるな。


  意識を手元に戻す。さて問題はどうやって点数を上げるのか、だが、友達がいない俺にとれる勉強法など限られている。


 ただ独り、机に向かい合うのだ。耳にはイヤホン、手にはシャーペン……勉強法が限られてるから悩む必要なんてなかったわ。ひたすら勉強するしかないね。新しい英単語も覚えなきゃな。次覚えるのは「スケベ」とか「ヘンタイ」とかかな。


 友達がいればワイワイしながら、頭の良い奴に教えてもらったり出来たんだろうけどね、俺の場合頭脳明晰の友達どころか友達が居ないからね。はっはっは! ……いや、別に笑うところじゃねーよ。


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