熟練ぼっちに苦手はない(大嘘)2
この学園は変わった生徒が多いでござるな。
服部 夜孤助はこちらの位置に気づいた人物を見ながら改めてこの学園の異質さを認識した。
「どうやったらあの位置から某の気配に気付くんでござろうか。やはり、影春学園の生徒は変わり者が多いでござるな」
自分のことを棚に上げて服部は静かに呟いた。
服部は忍者の末裔だ。
元々忍者の隠れ里である伊賀で忍び暮らしていたのだが外の世界を知るという口実の下、この学園に入学した。
そんな服部は現在、体育の授業を抜け、木に登り自らの姿を隠していた。
服部は外の世界を知るためにこの学園に入学した。
だが、目的は勿論それだけではない。自分の技の研鑽を積むためだ。
今は忍者にとって最重要といっても過言ではない気配隠蔽の鍛錬中だったのだが服部が授業を抜ける瞬間、何人かがこちらの気配に気づきかけた。某もまだまだでござる、と服部は深々と息を吐いた。
それにしても、と服部は静かに息を飲んだ。
「……やはりあの二人は別格でござるな」
その視線の先にいるのは黒瀬影莉だ。
一瞬にして某の気配に気づくとは……あの黒瀬という男児はやはりおぞましいでござるな。下手したら里の長並みの気配探知でござる、と里を出る際に最後に見た長の顔を服部は思い出した。
服部は二年四組に所属する生徒だ。黒瀬とは体育の授業をもう十数回共にしているのだが、授業の途中で気配を消し忍んでも毎度気づかれてしまう。
そんな彼は何故かパス練習が始まった途端、何処かへ行ってしまったが某に見られたくない様な秘密がきっとあるのでござろう、と服部は一人で納得した。今はそれよりも優先すべきことがあったから。
別格と評価したもう一人、服部はこちらを未だ警戒し続ける女子を横目で一瞥した。
生徒会長、羽独紫音。
遠くから服部の方を鋭く蛇のように睨みつける紫音。
服部は彼女と目が合った瞬間、蛙のようにビクビクと身体を震わせた。
あの男児はそうでもないのでござるが、こちらの女子は敵意が凄いでござるな。今にも殴りかかってきそうな雰囲気で怖いでござる、と服部は紫音の放つピリついたオーラに頬を引きつらせた。
実は先程、黒瀬と教師が話している時、本当は内容を盗み聞きしようと考えた服部だったが自らに向けられる紫音からの純粋な敵意に気づいて諦めていた。
某は敵じゃないでござるよー、服部は紫音に敵意がない事を知らせるために両手を挙げて、手をプルプルと震わせた。
すると、
「影莉くんに危害を加えたら許さないから……」
紫音はボソリと呟いてその場を去っていく。その言葉には様々な感情が入り混じっていた。
やだ、怖いでござる。服部は恐怖が蛇のように自分の躰を這いずるのを感じた。
なんでその距離からこっちに声が届くのでござる。
某、忍術使ってないんでござるが……。ていうか何で今外にいるんでござるか? 授業中でござるよ。生徒会長特権でござるか? ホント怖い。
黒瀬影莉と羽独紫音。
この二人は何者なんでござろうか……。これでも某、里の中でも最高レベルの隠遁術の使用者なんでござるが……。
それに男児に至ってはあの噂……。
もし全て真実だとすれば……。
服部はこの学園の末恐ろしさにもう一度溜息を吐いた。