熟練ぼっちは揺るがない4
何を見ているんだろう。
莉佐は休み時間、狸寝入りをしながら薄く目を開け彼を見ていた。
イヤホンを着けて真剣な表情で宙を見る黒瀬くん。彼が何を見ているのかが気になった。
クラスメイトはみんな馬鹿みたいな話で盛り上がっている。昔、あの輪の中に居た時は楽しく感じたであろう会話も側から見ると空虚なものにしか聞こえない。
「コイツさー、昨日会った女の子と仲良くなって今度遊ぶ約束してんだぜー!」
リア充達が集うリア充グループの主張が激しくなってきた。言葉に言い表せないモヤモヤが莉佐の心に溜まっていく。そのモヤモヤが莉佐の頬をピクリと動かした。
だが視界の隅に映る彼は不動だった。
皆が温かで優しく、楽しそうなあの空間に視線を向ける中、彼だけが不動だった。
だが先程とは違いその瞼は閉じられていた。
「ばか! そんなんじゃないって!」
イチャイチャが続く中、彼が莉佐の方を向いた。
嘘ッ!?︎ 僕が一年間かけて編み出した『バレないで見れーるよ』がバレた!?︎ その名の通りバレるはずないのに……!
バレてないと半ば思い込むように信じて莉佐は寝息を立てた。
「……すぴー」
もうバカッ! 「すぴー」って普通ありえないでしょ! もう絶対バレたよ。なんで俺の方見てたんだろ? キモッ、とか思われちゃうよぉ〜。
莉佐が不安に思っていると、彼がガタンと椅子を下げ立ち上がり、少し早足で教室を出て行った。
その時彼の手が強く握られていることに莉佐は気づいた。
彼は何を見ていたんだろう。
何故強く手を握っていたんだろう。気になって後をつけようとしたその時、空が晴れた。それは彼がいなくなった直後。まるで彼を照らすことを空が拒んだかのように彼が姿を消した後。
「おい、見てみろよ、空!」
「虹が……!」
「わぁ、キレイ……」
「すげぇな……」
「ふーん……」
皆が一様に教室の窓から空を見上げて感嘆の息を吐いた。それはまるで映画のワンシーン。
僕もつられて隙間から空を見上げた。空には七色の虹が空と空を繋ぐ橋のようにかかっていた。
「……」
感動した、感動出来たはずだった。
なのに言葉は、感情は出なかった。本来なら感嘆のため息が出るはずなのに。
そこには色が無かったから。
綺麗で可愛くて凛々しい色はあって、赤も青も緑も黄色もそこには確かにあったのに、何か色が足りない気がしたから。
どこかに置いてきたように。誰かに攫われたように。
僕の求めている色が――そこにはなかった。